質問
信託銀行がよく「遺言信託」というサービスを宣伝していますが、家族信託とは違うのですか?
回答
信託銀行の「遺言信託」というサービスは、信託法上の「信託」とは関係ありません。
信託銀行が公正証書遺言を作るサポートをして、遺言書を保管し、遺言執行をするというサービスです。
これらは、あくまで民法上の遺言です。
遺言ですから、遺言者が亡くなったときから効力が発生します。
民法 第985条1項
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
つまり、生前のことは遺言ではカバーできないのです。
認知症になって判断能力が無くなった場合の財産管理は、遺言では対応できません。
これに対して、家族信託は契約をしたときから効力を発生させられます。
例えば、親御さんの財産をお子さんに信託したとします。
信託をした後は、財産の管理処分はお子さんが行います。
その後、親御さんが認知症になって判断能力が無くなったとしても、お子さんが財産の管理処分を継続していきます。
自宅不動産をお子さんの判断によって売却したり、不動産の売買などを通じて資産活用・相続税対策を行うこともできます。
生前の財産管理ができるという点が、通常の遺言に比べた場合の家族信託のメリットと言えます。
また、家族信託では信託終了時に財産を承継する人(帰属権利者)や、受益者が亡くなったときに受益権を承継する人を契約時に指定することができます。
親御さんは、自分が亡くなった後に、信託財産を承継する人を決めておけるのです。
つまり、信託した財産について、家族信託は遺言書の代わりとなる機能もあるのです。
(なお、信託した財産以外については効力が及ばないので、信託財産以外のものをカバーするため通常の遺言書を併用することもあります。)
通常の遺言と家族信託の大きな違いとして、家族信託なら何代にも渡って承継者を指定できるという点が挙げられます。
通常の遺言の場合、自分の次に財産を相続させる(遺贈する)人しか指定できません。
「自分が死亡したら長男、その後、長男が死亡したら二男」などと言うように、何代にも渡る指定はできないのです。
この点、家族信託であれば何代にも渡って受益者を指定することが可能となります。
(厳密にいうと信託法91条により信託設定してから30年経過して2回受益者が死亡するまでとなります)
これを利用することによって、自分の直系血族以外に財産が流出することを防いだりすることができます。
何代にも渡って承継者を指定する信託を、受益者連続信託と呼んでいます。
この受益者連続信託を活用するケースを一つ紹介したいと思います。
自宅不動産や預金をもっている親御さんがいらしたとします。
家族構成としては、妻と長男・長女がいます。
そして、妻は既に認知症で判断能力がなかったとします。
親御さんは妻に財産を相続させたいと思っております。
ただ、遺言書で「妻に全財産を相続させる」旨を書いても、いざ相続が開始すると妻には判断能力がありませんから、相続手続や財産の管理ができません。
妻に成年後見人をつけないと、相続手続や財産管理が行えないかもしれません。
そこで、家族信託を活用して、財産を管理する受託者を用意してあげるのです。
例えば、親御さんを委託者、長男を受託者として親御さんの財産を信託します。
受益者ですが、親御さんの存命中は親御さんを受益者にします。
そして、親御さんが亡くなった場合は受益者が妻になるように信託契約書で指定しておきます。
妻が亡くなったら、例えば、長男と長女で受益権を2分の1ずつ承継するように指定しておきます。
受託者の長男は、不動産やお金を管理します。
まずは、親御さんが受益者ですから、親御さんは受益者として自宅に住む権利もありますし、長男から必要に応じて生活費などを給付してもらいます。
親御さんが亡くなると受益者は妻に代わります。
受託者の長男が財産を管理しますが、妻は受益者として自宅不動産を使うこともできますし、生活費の給付を受けることもできます。
受託者の長男が、管理しているお金から妻の医療費や施設費などを支払うようにもできます。
妻が施設に移り、自宅に誰も住まなくなったら、受託者の長男の判断で自宅を売却することもできます。
売買代金は信託財産になりますから、長男が管理しますが、受益者のために使うお金です。
その後、妻が亡くなったら、受益者は長男と長女になります。
そしたら、合意で信託を終了させて、お金を長男と長女の二人で分けることができます。
以上、受益者連続信託を活用した認知症配偶者のための信託を解説しました。
通常の遺言と家族信託の違いをまとめると、次のようになります。
- 家族信託であれば生前の財産管理も対応できる
- 家族信託であれば何代にも渡って承継者を指定できる
詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。
家族信託 よくある質問
- 家族信託のメリットは何ですか?
- 成年後見制度では相続税対策ができないのですか?
- 家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?
- 家族信託の費用はいくらぐらいかかりますか?
- 信託銀行の遺言信託をしてますが家族信託はできますか?
- 家族信託の受託者の責任や義務を教えてください
- 受益者連続信託を行う期間に制限はありますか?
- 信託契約を変更することはできますか?
- 受託者が亡くなった場合はどうなりますか?
- 受益者と受託者が同じ人になってしまった場合はどうなりますか?
- 受益者連続信託を行った場合、遺留分はどうなりますか?
- 遺言代用信託で承継者を変更できないようにすることはできますか?
- 信託する際の登記の登録免許税はいくらかかりますか?
- 受益者代理人とはなんですか?
- 遺言書(遺言信託)と家族信託の違いは何ですか?
- 家族信託を組むと不動産取得税はかかりますか?
- 家族信託・民事信託のデメリットは?
- 親の預金を認知症で凍結させない予防法
- 認知症で判断能力がないから成年後見人が必要であると誰が判断するのか?
- 土地1500万円、建物500万円、現金1500万円のときの家族信託の費用目安
- 土地1000万円、建物500万円、現金1000万円のときの家族信託の費用目安
- 土地2000万円、建物500万円、現金2500万円のときの家族信託の費用目安
- 家族信託と財産管理委任契約(任意代理契約)はどう違う?
- 家族信託の受託者になれる人の範囲は?何親等まで?甥や姪はなれる?
- 家族信託の契約書は公正証書で作る?私文書でも大丈夫?
- 空き家対策に家族信託を活用する方法はありますか?
- 損益通算の禁止規定とは何ですか?
- 家族信託と遺言書はどちらが優先しますか?
- 年金受給権を家族信託できますか?
- 受託者の使い込みが心配です。どうすれば良いでしょうか?
- 信託口口座についてペイオフ対策は必要ですか?
- 家族信託の手続きは自分でできますか?
- 家族信託した不動産を売却するときはどんな登記をしますか?
- 信託終了後、受託者でもある帰属権利者に所有権移転登記する際の登録免許税は?
- 家族信託の必要書類は?
- 家族信託で親の生活費に困らないようにするには
- アパートオーナー(賃貸経営者)の認知症対策に家族信託を活用する
- 家族信託で認知症の配偶者(夫または妻)に財産を相続させるには
- 家族信託をすると税金はどうなる?
- 家族信託が必要ないケースを検討してみる
- 任意後見人(任意後見制度)とは何か?
- 家族信託を始めるタイミングは?
- 士業などに信託監督人を頼むのは必須ですか?
- 家族信託の受益権は遺産分割協議や遺言の対象となりますか?
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