家族信託・民事信託のデメリットは?

目次

質問

家族信託のデメリットは何でしょうか?

回答

相続・認知症対策として活用できる家族信託ですが、デメリットについても検討してみたいと思います。

対応できる専門家が少ない

まず、家族信託をやりたいと思っても、相談できる専門家が少ないという問題があります。

一部の士業が家族信託を扱っていますが、その数は少ないのが現状です。

家族信託は組成したら終わりではなく、組成後、何年にも渡って信託が継続していくことになります。

将来の事情の変化も想定したうえで、それらに対応できるように信託を組む必要があります。

想定外のことがおきて多額の贈与税がかかってしまったり、信託の継続が不可能になってしまっては困ります。

書籍を数冊程度読んだだけでは、士業であってもこれらのリスクに十分配慮した組成ができないと思われます。

費用をかけて研修や書籍などから積極的に情報を集め、常に最新の家族信託事情を把握していないと、怖くて家族信託の業務はできません。

このハードルが高いために、家族信託を扱う専門家が少ないのだと思われます。

初期費用がかかる

家族信託を組むには初めの段階で費用がかかります。

安くても数十万円はかかるでしょう(報酬の目安はこちら)。

ただ、家族信託以外の選択肢を考えると、それらの方が結果的に高いことが多いです。

例えば、生前贈与ですが、まず高額の贈与税がかかります。

贈与税の税率は10~55%です。

また、不動産を贈与した場合は、固定資産評価額の2%の登録免許税がかかります。

これに対して、家族信託の場合は、固定資産評価額の0.3~0.4%の登録免許税で済みます。

5000万円の評価額だった場合、贈与では100万円の登録免許税がかかりますが、家族信託なら30~40万円となります。

その他、不動産を贈与すると固定資産評価額の3~4%の不動産取得税がかかりますが、家族信託ならかかりません。

つまり、実費部分を踏まえて考えると、生前贈与より家族信託の方が安いケースが多いのです。

次に、成年後見制度と比べてみましょう。

成年後見制度で専門職後見人がつくと、基本的にご本人が亡くなるまで後見人報酬が発生します。

月3万円だとしても、1年で36万円、10年で360万円の計算となります。

また、成年後見制度では空き家となった自宅不動産を売れない可能性もありますから、この維持費(固定資産税・草刈代・修繕費)なども考慮に入れた方が良いでしょう。

これらのコストと家族信託の費用を比較した上で検討してもらえればと思います。

家族信託に対応している金融機関が少ない

家族信託を組んだら、受託者が信託口口座を開設して、その口座で信託されたお金を管理するという説明を聞いたことがあるでしょうか。

信託口口座を開設できれば、万が一、受託者が先に亡くなったとして、受託者個人の相続手続をせずに、信託契約に基づいて信託口口座を後継の受託者に変更できるでしょう(名義だけ信託口口座のようにつけて、実質は受託者の個人口座である金融機関もありますから注意しましょう)。

これが受託者の個人口座だと、受託者の相続人全員の実印と印鑑証明書がないとお金を下ろせなくなってしまいます。

また、受託者個人の債務に関する差押も、受託者の個人口座だとされてしまうかもしれません。

上記の問題を解決するために、信託口口座を開設したいところですが、現時点で信託口口座を開設できる金融機関は非常に少ないです。

止むを得ず受託者の個人口座を使うというケースもあります。

ローンが残っていて、不動産に抵当権などがついている場合も注意しましょう。

多くのローン契約書には、不動産の名義を変更する場合は金融機関の同意が必要である旨の特約が載っています。

無断で信託を組んで、受託者に名義を移すと問題になるかもしれません。

そこで、金融機関の同意を求めるのですが、信託に理解を示さない金融機関も多いのが現状です。

同意がもらえない場合は、信託に理解のある金融機関に借り換えをすることも検討しなければなりません。

なお、信託を組んだ後に、受託者が借入をした場合、その債務が受益者の相続時の相続税の申告で債務控除できるか否かは、税理士によって見解が異なります。

その様なスキームを検討している場合は、税理士に相談する必要があるでしょう。

受託者に適した人がいないとできない

財産の管理処分を引き受ける受託者に適した人がいないと家族信託はできません。

営業として受託者になる場合は、信託業法の免許や届出が必要になります。

営業とは、不特定多数を相手に反復継続して信託の引き受けを行い報酬を得ようとする場合です。

司法書士や税理士などの士業が受託者になってしまうと、業として行うことになりますから信託業法に引っかかってしまいます。

必ずしも委託者の家族である必要はありませんが、営業としてではなく、受託者になってくれる人がいないと家族信託はできません。

なお、受託者になると様々な責任や義務が発生します。

まず、受託者は信託事務について記録や帳簿をつけなくてはなりません。

ご自宅の信託でしたら、通帳と現金出納帳をつけて、定期的に財産目録を作成するぐらいで良いかもしれませんが、収益物件などを信託した場合は総勘定元帳をつけて、定期的に貸借対照表・損益計算書などを作るぐらいの帳簿が要求されるでしょう。

また、受託者は信託のための取引について無限責任を負います。

例えば、受託者が業者にリフォームを頼んだとします。信託財産で払えれば問題ありませんが、払えない場合は業者は受託者個人にも請求ができます。

その他、受託者が任務を怠ることにより信託財産に損失が生じた場合、受益者に対して損失てん補または原状回復の責任を負います。

受託者は信託財産の所有者ですので、所有者責任を問われることもあります。

例えば、信託財産である建物の瓦がおちて誰かが怪我をしたとします。

損害賠償請求を受けたとして、信託財産で払えなければ、受託者個人にも請求が来ます。

また、不動産を売ったときなどの瑕疵担保責任も、信託財産で払えなければ、受託者が払わなくてはなりません。

この様に受託者には責任と義務がありますので、そうそう誰にでも頼める性質のものではないと思います。

親子であったり、将来財産を承継する予定であるなどの強い絆がないと、なかなか受託者は引き受けられないのではないでしょうか。

税務署に提出する書類が増える

信託の計算書

信託財産にかかる収益の額の合計が3万円(計算期間が1年未満の場合は1万5000円)を超える場合は、翌年1月31日までに、受託者が税務署に「信託の計算書」を提出します。

自宅のみの信託であれば、不動産を売却しない限り、年間の収益が3万円を超えないでしょうから「信託の計算書」の提出は不要ですが、不動産を売却したり、賃貸物件を信託している場合は、「信託の計算書」の提出が必要となります。

詳細は、「家族信託導入の流れ9 組成後に受託者が行うこと」をご参照ください。

受益者別調書

相続が起こった場合、翌月末日までに「信託に関する受益者別調書」を受託者が税務署に提出します。

詳細は、「家族信託導入の流れ10 相続が起こったら」をご参照ください。

詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。

以上のように信託したことにより、「信託の計算書」や「受益者別調書」の提出が必要になる場面があり、受託者が自分で書類を作らないとすれば、税理士に作成を依頼する必要が出てきます。

損益通算の禁止規定がある

個人が受益者である信託において、信託した不動産から生じた損失がある場合には、その損失がなかったものとみなされます。

信託した不動産に修繕や取壊しなどにより多額の損失が発生した場合、その損失を他の不動産所得や他の所得と損益通算ができません。

つまり、信託された不動産に赤字が生じた場合、受益者が個人として有する不動産所得の黒字や他の所得と差し引きできません。

また、個人が受益者である信託において、信託した不動産から生じた損失を将来に繰り越すこともできません。

その結果、所得税を、信託していたなかった場合よりも多く払うケースが出てきます。

賃貸物件などを信託する場合、将来、大規模修繕等で赤字になる年が見込まれるのであれば注意する必要があります。

詳しくは、「損益通算の禁止規定とは何ですか?」の記事もご参照ください。

身上監護の権限は受託者にない

本人の生活、療養看護に関する事務のことを身上監護と言います。

具体的には、入院の契約の締結、施設の入退所の契約、介護の契約、リハビリの契約などです。

家族信託はあくまで信託された財産について管理処分する権限を受託者に与える制度ですから、受託者だからといって本人の身上監護をする権限が与えられているわけではありません。

受託者に身上監護の権限はないということになります。

ただ、上記の入院、施設入所、介護、リハビリなどの契約は本人に判断能力がなくてできなければ、事実上、家族が代筆して済んでしますことが多いです。

しかし、施設等が厳しくて、「本人に判断能力がなければ成年後見人をつけて、成年後見人が契約をしてください」と言われてしまうと、身上監護のために成年後見人をつけなくてはならないケースもあり得ます。

年金は信託できない

年金は信託できません。

年金は委託者の個人の口座に振り込まれ続けることになります。

委託者の判断能力があるうちは、年金が貯まったら、追加信託するということも考えられます。

しかし、委託者の判断能力が低下してしまうと追加信託はできなくなってしまいます。

委託者の指定した承継方法に縛られる

信託契約書の中で受益者が亡くなったときの承継方法を指定していることも多いかと思います。

このような指定がある場合、受益者の死亡後に法定相続人の協議で、承継方法を変更することは基本的にはできないとお考えください。

変えられるケースにおいても、税金の負担が生じる可能性もあります。

相続開始後に法定相続人の協議で承継方法を決めたい場合は、家族信託の組成の段階で専門家に相談しておいた方が良いでしょう。

受託者の判断能力が低下すると、受託者に成年後見人をつけないとならないかもしれない

不動産を信託財産としている場合で、受託者の判断能力が低下してしまったときは、受託者に成年後見人をつけないと、新しい受託者に信託した不動産の所有権移転登記ができないかもしれません。

新しい受託者に不動産の所有権移転をするには、元の受託者と新しい受託者の共同申請で登記をしなければならないためです。

元の受託者に判断能力がないので、登記申請の依頼をすることができません。

元の受託者に成年後見人をつけると、新しい受託者が単独で所有権移転登記ができるようになります。

元の受託者の判断能力が低下しそうな兆候があったら、判断能力の低下が著しくならないうちに新しい受託者に交代した方が良いかもしれません。

判断能力の低下が少しであれば、成年後見人をつけなくても登記ができる可能性があるからです。

家族信託 よくある質問


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