独身で子どもがいないので世話をしてくれる甥に全財産を遺贈したい
上記の図で坂戸太郎さんは、独身で子どももいません。
坂戸太郎さんの親御さんは既に死亡しており、兄と妹がいます。
兄と妹には、それぞれ子がおり、妹の子・川越一太さんは坂戸太郎さんの世話を良くしてくれています。
この様なケースで、仮に坂戸太郎さんが亡くなったとすると、坂戸太郎さんの相続人は兄と妹になり、相続分はそれぞれ2分の1です。
甥の川越一太さんは、坂戸太郎さんに良く会いにきてくれて、色々な世話もしてくれています。
坂戸太郎さんとしては、甥の川越一太さんに相続財産を渡したいと思っています。
川越一太さんに全財産を渡す方法があるでしょうか?
坂戸太郎さんが生前に「全財産を甥・川越一太に遺贈する」旨の遺言書を作っておけば、全財産を川越一太さんに渡すことができます。
なお、このケースでは、坂戸太郎さんの法定相続人は兄と妹で、兄弟姉妹に遺留分はありませんので、全財産を甥に遺贈しても兄と妹から遺留分減殺請求はされません。
つまり、全財産を甥に遺贈したいという坂戸太郎さんの願いを叶えられます。
この様なケースでの遺言書の文例を作成しました。
全財産を甥に遺贈させたいときの遺言書の書き方
遺言者坂戸太郎は、次のとおり、遺言をする。
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産その他一切の財産を、遺言者の甥川越一太(昭和〇年〇月〇日生)に包括して遺贈する。
地 番 ○番○
地 目 宅 地
地 積 ○○・○○㎡
所 在 東松山市○町○丁目 ○番地○
家屋番号 ○番○
種 類 居 宅
構 造 木造スレート葺2階建
床 面 積 1階 ○○・○○㎡
2階 ○○・○○㎡
第2条 遺言者は、この遺言の執行者として前記甥川越一太を指定する。
2. 遺言者は、遺言執行者に次の権限を授与する。
3. 遺言執行者は、この遺言の執行に関し、第三者にその任務を行わせることができる。
平成○○年○○月○○日
埼玉県東松山市○町○丁目○番地○
遺言者 坂戸太郎 印
- 自筆証書遺言は、遺言者が、全文、日付、氏名を自署して、押印しないと無効です(ワープロ打ち・パソコン作成は不可です)。
- 自筆証書遺言の訂正方法には決まりがあります。間違えた場合には書き直した方が良いでしょう。
- 自筆証書遺言は書き方を間違えて無効になるケースや、遺言の内容が不明瞭で相続手続に困るケースが散見されます。できれば公正証書遺言にした方が良いでしょう。
遺言書の解説
坂戸太郎さんの、相続財産の全部を包括して、川越一太さんに遺贈する文例です。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します。
民法 第990条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
包括して遺贈することにより、一切の相続財産は甥・川越一太さんが承継します。
なお、坂戸太郎さんにマイナスの財産(借金など)があった場合は、包括受遺者はこれも承継します。
不動産を遺贈された場合、登記手続は受遺者と相続人全員との共同申請で行います。
ただ、遺言執行者が選任されている場合は、受遺者と遺言執行者の共同申請となります。
上記の例では、川越一太さんを遺言執行者に指定していますから、川越一太さんだけで遺贈の登記手続ができます。
遺言執行者が選任されていないと、川越一太さんと、坂戸太郎さんの兄・妹で遺贈の登記を申請するようになります。
遺贈の場合は、遺言書で遺言執行者を指定しておいた方がスムーズな手続ができるでしょう。
この点、実務において、自分で書かれた自筆証書遺言をみていると、遺贈であるにもかかわらず遺言執行者を指定していないため、相続開始後の手続が面倒になるケースが見受けられます。
注意したほうが良いでしょう。
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