相続放棄すると被相続人の債務は?
亡くなった人(被相続人)が水道料金・ガス代・電気代などの公共料金を滞納していたら、相続放棄した相続人にこれらの支払義務はあるのでしょうか?
相続放棄をすると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
従いまして、亡くなった人(被相続人)に債務があったとしても、相続放棄した人は、その債務を支払う必要はありません。
しかし、相続放棄した人が亡くなった方(被相続人)の配偶者(夫または妻)であるときは、注意しなければならないことがあります。
それが、日常家事債務です。
日常家事債務
民法第761条には、夫婦の一方が日常の家事に関して生じた債務は、他方も連帯して責任を負うとしています。
民法第761条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
日常家事債務とは、水道料金、ガス代、電気代などの公共料金、家族の医療費、生活必需品の購入費などが該当するでしょう。
亡くなった方(被相続人)の配偶者(夫または妻)は、相続放棄しても日常家事債務については連帯責任があるということになります。
日常家事債務に該当するか否かの判断基準は、最判昭和44年12月18日で判示されています。
最判昭和44年12月18日
民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。
水道光熱費などの公共料金は、相続放棄した配偶者でも日常債務として支払義務が出てきてしまうでしょう。
なお、相続人が相続財産を一部でも処分すると、単純承認とみなされ相続放棄ができなくなってしまうかもしれません。
相続財産から債務の弁済を行うと、単純承認とみなされるかどうかは見解が分かれているようです。
亡くなった方(被相続人)の滞納していた公共料金を配偶者が払う場合には、配偶者の固有財産から支払った方が安全だと思われます。
(個々の行為が日常家事債務に該当するか否かも含め、相続放棄を依頼した専門家の指示に従ってください。)
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