遺言書がないと何に困る?
遺言書がない場合、不動産や預貯金の相続手続に相続人全員の実印の押印と印鑑証明書が必要となります。
将来、相続が始まった時に、相続人全員に協力してもらえないことが予想されるなら、遺言書を作っておいた方が良いでしょう。
遺言書を作っておかないと困るケースとして、次のような場合が考えられます。
- 相続人同士の話し合いがまとまらなさそうなケース
- 子どものいない夫婦のケース
- 前の配偶者との間に子どもがいるケース
- 相続人になる予定の人の中に認知症の人がいるケース
- 相続人ではない人に遺産を渡したいケース
これらのケースに当てはまる場合は、将来、遺言書がないことでご家族が困らないように、遺言書の作成を検討してはいかがでしょうか。
不動産や預貯金の相続手続に必要な書類
遺言書がない場合、不動産や預貯金の相続手続には次の書類が必要となります。
- 相続関係を証明する戸籍謄本一式
- 相続人全員が実印を押印した遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
遺言書がない場合、個々の遺産を誰が相続するのか決めるには、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
そのため、まずは、誰が相続人であるのかを証明できるように戸籍謄本を集めます。基本的には亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までの一連の戸籍謄本と、相続人全員の現在の戸籍謄本です(ケースによってさらに複雑な場合があります)。
被相続人の相続人が誰であるのかを戸籍によって確認できたら、相続人全員で遺産の分け方を話し合います。話し合いがまとまったら、その内容を遺産分割協議書にして、これに相続人全員が実印を押印します。そして、実印であることを証明するために、相続人全員の印鑑証明書を添付します。
これらの書類を、不動産の相続登記の場合は法務局に、預貯金の相続手続の場合は金融機関に提出します。そのため、相続人全員の実印の押印と印鑑証明書がそろわないと相続手続が進まないことになります。
何らかの理由で遺産分割協議がまとまらなかったり、できなかったりした場合、相続手続ができません。相続手続を進めたいのであれば、遺産分割調停を申立てるなど裁判所を使った手続をする必要があります。
この対策として、生前に遺言書を作っておくことが考えられます。遺言書があれば、相続人全員の実印の押印と印鑑証明書なしに、遺言書を使って不動産や預貯金の相続手続ができます。
次の項からは、遺言書を作っておいた方が良い具体的なケースについて解説していきます。
相続人同士の話し合いがまとまらなさそうなケース
相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまらなかったり、できなかったりすれば相続手続は進みません。
現時点での家族関係を考えてみて、相続が起こったときにスムーズに話がまとまるか検討してみましょう。話がまとまらない可能性がある場合は、遺言書を作っておいた方が良いでしょう。
音信不通の家族がいる
たとえば、音信不通の家族がいる場合、相続が始まっても連絡が取れないかもしれません。
相続が始まってから、音信不通の家族の現在の戸籍謄本を取り、そこに記載してある本籍と筆頭者で戸籍の附票を取れば住民票上の住所は分かります。そこに手紙を出してみて、返事があれば遺産分割の話し合いができるかもしれませんが、返事がなかったり、手紙自体が届かなかったりすれば困ったことになります。
相続人の間に不公平感がある
一部の相続人だけが介護等を頑張ってくれていた場合、その相続人からすれば、その頑張りを踏まえて遺産を多くもらいたいと思うかもしれません。
しかし、他の相続人が同意してくれるとは限りません。寄与分という制度もありますが、認められるには、被相続人の療養看護に通常期待される程度を超えて従事したなどの事情が必要です。
ハードルが高いので、介護等を頑張ってくれた相続人に多くの遺産を渡したい場合は、そのような内容の遺言書を作っておいた方が良いでしょう。
生前に一部の相続人にだけ贈与をしていた場合も、相続開始後に遺産分割でもめる可能性があります。
生前贈与分を考えて遺産の取得分を少なくするかどうかでもめたり、生前贈与の金額をめぐってもめたりする可能性が考えられます。
これらを防ぐためにも遺言書を作った方が良いかもしれません。
自宅不動産が主な財産
主な財産が自宅不動産しかない場合、どんな問題が考えられるでしょうか。
その自宅不動産に住んでいる相続人と、住んでいない相続人がいて、住んでいない相続人が法定相続分相当の遺産を要求した場合、困ることになるかもしれません。
預貯金があれば住んでいない相続人に預貯金を相続させることで問題は解決するかもしれませんが、自宅不動産しかないとそうもいきません。
住んでいない相続人に「自宅を売って、お金を分けよう」と言われてしまうと、住んでいる相続人は困ってしまいます。
その他のケース
その他、遺産分割がまとまらないケースとして農地などの売れない不動産がある場合が考えられます。
また、会社経営者が自社株式を持っている場合も、後継者が株式を相続できないと会社経営に支障がでます。遺言書で株を相続する人を指定しておいた方がよいでしょう。
子どものいない夫婦のケース
子どものいない夫婦の場合、亡くなった人の親や兄弟姉妹が相続人に入ってくることがあります。残された配偶者は、亡くなった人の親または兄弟姉妹などと遺産分割の話し合いをしなくてはなりません。
この場合も遺言書があれば遺言書を使って相続手続ができるので、子どものいない夫婦は遺言書の作成を検討した方が良いでしょう。
たとえば、一郎さんと春子さんという夫婦がいて、二人の間には子がいなかったとします。
一郎さんが亡くなると、妻である春子さんは相続人となります。
ただし、配偶者だけでなく、血族相続人も相続人です。一郎さんに子がいない場合、一郎さんの親などの直系尊属も相続人となります。
一郎さんの死亡以前に、一郎さんの親などの直系尊属が全員亡くなっている場合、一郎さんの兄弟姉妹が相続人となります。なお、一郎さんの死亡以前に亡くなっている兄弟姉妹がいる場合は、亡くなった兄弟姉妹の子(一郎さんからすると甥姪)が相続人に入ってきます。
このように、亡くなった人に子がいない場合、亡くなった人の親などの直系尊属または兄弟姉妹(ケースによっては甥姪)が相続人となりますので、残された配偶者はこれらの人と遺産分割協議をしなければなりません。
全財産を妻に相続させたいのであれば、「一切の財産を妻に相続させる」旨の遺言書を作っておくと良いでしょう。夫と妻のどちらが先になくなるか分かりませんから、夫婦ともに遺言書を作りましょう。
なお、兄弟姉妹には遺留分がありませんから、配偶者に全財産を相続させる旨の遺言書があった場合、兄弟姉妹が遺留分侵害額請求をすることはできません。
前の配偶者との間に子どもがいるケース
前婚のときの子がいる場合、その人も相続人となります。
夫が死亡して、妻と、妻との間の子が相続人となったとします。ただ、夫が再婚で、前婚のときの子がいる場合、その前婚のときの子も相続人となります。
不動産や預貯金の相続手続には、前婚のときの子の実印の押印と印鑑証明書も必要となります。
妻や、妻との間の子が、前婚のときの子と面識がないと遺産分割協議が難航するかもしれません。
このような場合も遺言書があれば、遺言書を使って相続手続ができます。遺言書の必要性は高いと言えるでしょう。
なお、前婚のときの子には遺留分があります。遺言書が遺留分を侵害している内容だと、相続開始後、前婚のときの子から遺留分侵害額の請求を受けるかもしれません。前婚のときの子の遺留分は、法定相続分の2分の1です。このケースでは8分の1(夫の死亡以前に妻が死亡していた場合は4分の1)となります。
相続人になる予定の人の中に認知症の人がいるケース
認知症や障がい等で遺産分割について理解が難しい相続人がいる場合、その人に成年後見人などをつけないと遺産分割ができないかもしれません。
判断能力が低下し、遺産分割ができない場合、どうしても遺産分割を進めるのであれば、家庭裁判所で成年後見人等を選任してもらいます。成年後見人が選任された場合、本人に代わって成年後見人が遺産分割に参加することになります。
なお、成年後見人が選任された場合、基本的に本人の法定相続分を確保する内容の遺産分割にする必要があります。
相続人の中に行方不明の人がいる場合も、その人に不在者財産管理人をつけないと遺産分割が進みません。不在者財産管理人についても家庭裁判所に選任してもらいます。
不在者財産管理人が遺産分割に参加する場合も、基本的には本人の法定相続分を確保する内容の遺産分割にするようです。
相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者の親権者自身も相続人となっていると、未成年者に特別代理人をつけないと遺産分割ができません。家庭裁判所で特別代理人を選任してもらうことになります。
このように、相続人の判断能力が低下している場合、行方不明の場合、未成年者の場合などは家庭裁判所を使った手続が必要となります。
これらを回避するために、遺言書を作っておくことが考えられます。
相続人ではない人に遺産を渡したいケース
相続人でない人に遺産を渡したいのであれば、遺言書を作りましょう。
例えば、内縁の配偶者は法律上、相続人ではありません。何もしておかないと遺産をもらえないので、遺言書で遺産を遺贈しましょう。
また、相続人でない人に遺産を渡したいケースとしては、配偶者の連れ子だけれども自分とは養子縁組していない場合が考えられます。養子縁組すれば養子も相続人となれますが、養子縁組しない場合は遺言書を作っておきましょう。
その他、子どもの配偶者に遺産を渡したい場合なども、相続人でない人に遺産を渡したいケースとして考えられます。
遺言書の種類
主に使われている遺言書として、手書きの遺言書である自筆証書遺言と、公証人が関与して作る公正証書遺言があります。
自筆証書遺言は、手書きすれば良いので手軽に作れますが、法律上のルールを守らないと無効な遺言書となってしまいます。また、自己流で書いて、遺言の内容が不明確だと、実際の相続手続に使えないリスクもあります。
確実性をもとめるなら、公正証書遺言にした方が良いでしょう。公証人手数料はかかりますが、公証人が関与しますので形式を間違えて無効になることは、まず考えられません。
そして、公証人のアドバイスが受けられますから、内容が不明確で相続手続に支障が出る可能性も低減できます。
自筆証書遺言の作り方
自筆証書遺言のルール
自筆証書遺言の作り方は民法第968条に定められています。ルールを箇条書きでまとめると次の通りです。
- 全文を手書きすること
- 日付を手書きすること
- 署名すること
- 押印すること
まず、自筆証書遺言は全文を手書きしてください。パソコンなどで作成して印刷したのではダメということになります。
ただし、法律改正により、相続財産目録は手書きでなくてもよくなりました。手書きしなかった場合は、相続財産目録の全ページに遺言者の署名押印が必要ですので注意してください。
次に、日付を手書きします。「2024年6月30日」や「令和6年6月30日」などと年月日を正確に記載してください。和暦で書く場合は、元号も忘れずに記載しましょう。
最後に署名押印します。署名は戸籍のとおり正確に書きましょう。氏名だけだと遺言者の特定性に欠ける可能性がありますので、住民票上の住所も書いておくと良いでしょう。
ハンコは認印でも実印でも、法律上はどちらでも構いません。ただし、実印を押印しておくと、本人が書いたという証拠能力が高まりますので、できれば実印を押印しておくと良いでしょう。シャチハタなどのスタンプ印は避けてください。
自筆証書遺言の文例
全財産を一人の相続人に相続させるシンプルな内容の自筆証書遺言の文例を紹介します。
遺言書
1 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻川越松子(昭和〇〇年〇月〇日生)に相続させる。
2 遺言者は、本遺言の遺言執行者として前記川越松子を指定する。
令和〇年〇月〇日
埼玉県東松山市元宿2丁目〇
遺言者 川越甲太郎 ㊞
自筆証書遺言は全文を手書きする性質上、あまり複雑な内容の遺言には向きません。全財産を一人に相続させるようなシンプルな遺言に適しているでしょう。
「遺言者の有する一切の財産」と記載すれば、不動産や預貯金を細かく特定しなくても、遺言者の全財産が対象となります。
遺産を渡す人の特定方法ですが、相続人の場合は続柄、氏名、生年月日で特定しましょう。続柄は、夫、妻、長男、長女などの関係性を表す言葉で、戸籍謄本を見ると載っています。氏名と生年月日も含め、戸籍謄本を見ながら正確に記載するのが望ましいです。
相続人以外の人を特定する場合は、氏名、生年月日、住所などを記載します。これも、できれば住民票を見て正確に記載してください。
相続人に対して遺産を渡したい場合は「相続させる」と記載してください。相続人以外の場合は「遺贈する」と記載します。
文例の2では遺言執行者を指定しています。相続人に「相続させる」旨の遺言の場合、不動産の相続登記や預貯金の相続手続は、その相続人が単独でできます。ただし、金融機関によっては遺言執行者がいないと遺言者の相続人全員の実印の押印と印鑑証明書を要求するところが稀にあると聞きます。その対策として、遺言書の中で遺言執行者を指定しておくということが考えられます。
遺言執行者は家族、相続人、受遺者等を指定しても構いません。
なお、遺贈の場合、遺贈の手続は受遺者(遺贈を受けた人)と遺言者の相続人全員とで行います。遺言執行者がいる場合は、受遺者と遺言執行者とで遺贈の手続ができます。将来、遺言者の相続人全員が遺贈手続に協力しないことが予想されるなら、遺言書で遺言執行者を指定しておいた方が良いでしょう。
公正証書遺言の作り方
どのような遺言書にするか検討する
公正証書遺言を作る場合は、公証役場に相談します。ただし、士業等にサポートを依頼するのであれば、士業等に相談しましょう。当事務所でも公正証書遺言作成のサポートを承っておりますので、必要に応じてご相談ください。
どのような遺言書を作るかですが、各財産を誰に渡したいのかを整理していきましょう。財産を渡したい相手が、万が一、自分より先に亡くなった場合は、その財産を誰に渡すかも検討してください。
公正証書遺言作成に必要な書類を集める
公正証書遺言を作成するために公証役場に提出する書類は次のようなものとなります。
- 遺言者の印鑑証明書(3ヵ月以内)
- 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
- 相続人以外の受遺者の住民票
- 不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書
- 通帳のコピー
- 株式、投資信託の資料のコピー
おおまかに言うと、遺言者の印鑑証明書のほか、相続人や受遺者を特定するための書類、財産を特定するための書類となります。必要書類はケースによって異なるので、詳しくは公証役場やサポートを依頼した士業等に確認しましょう。
公正証書遺言作成の当日
事前に公証役場と打ち合わせをして公証人が遺言書の原稿案を作成したら、公正証書遺言を作成する日を予約します。遺言者は実印を持って行ってください。
公正証書遺言を作るには証人2人が必要となります。士業等にサポートを依頼した場合は、士業等が証人になることが多いでしょう。証人になってくれる人に心当たりがなければ、公証役場に紹介を頼むこともできます。
公正証書遺言を作る場には、公証人、遺言者、証人しか入れません。付き添いのご家族がいる場合は、そのブース以外の場所で待っていていただくことになります。
公正証書遺言作成の流れですが、まず、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口で説明します。
その内容を公証人が原稿にしますが、実務では事前に打ち合わせて原稿は作成済みのことが多いでしょう。
次に、公証人が原稿を読み聞かせます。内容に間違いがなければ、遺言者と証人が署名押印します。遺言者は基本的には実印を押印します。
最後に、公証人が署名押印して公正証書遺言が完成します。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、正本と謄本という正規の複製を渡されます。不動産の相続登記や預貯金の相続手続は、正本や謄本を使って行うことになります。
正本や謄本を、財産を相続させる相続人や遺言執行者に渡しておくか、相続開始後、これらの人が気付く場所に保管しておきましょう。貸金庫に保管してしまうと、相続人全員の立ち会いや同意がないと取り出せなくなる可能性があるので注意してください。
遺言書がないと困るケースのまとめ
遺言書がないと財産の相続手続をするのに、相続人全員の実印の押印と印鑑証明書が必要となります。そのため、相続開始後、相続人全員の協力が得られないことが予想される場合は、遺言書の必要性が高いと言えます。
遺言書を作らないと困る可能性が高いケースとして、次のような場合が考えられます。
- 相続人同士の話し合いがまとまらなさそうなケース
- 子どものいない夫婦のケース
- 前の配偶者との間に子どもがいるケース
- 相続人になる予定の人の中に認知症の人がいるケース
- 相続人ではない人に遺産を渡したいケース
これらに該当する場合は、遺言書の作成を検討してはいかがでしょうか。
当事務所でも遺言書作成サポートを承っております。ご依頼をご検討の方を対象に、初回面談相談を無料で承っておりますので、必要に応じてお申し付けください。
また、遺言書の作り方を解説した書籍も出版しております。遺言書について、さらに詳しく知りたい場合は、こちらの書籍もご参照ください。
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