相続人に認知症の人がいる場合


父親Aが死亡して、相続人が妻Bと子C、Dだったとします。

上記の例で、Bが認知症で判断能力がない場合、被相続人A名義の不動産や預貯金の相続手続はどうすれば良いでしょうか?


遺言書が無ければ遺産分割協議

Aが生前に遺言書を作っておかなければ、不動産や預貯金を相続する人を決めるために遺産分割協議をします。

しかし、Bが認知症で判断能力が無かったとすると、遺産分割協議をすることができません。

この場合、Bに成年後見人をつけて、成年後見人がBの法定相続人として遺産分割協議に参加することになります。

それでは、Bの判断能力がどのぐらいかを調べるにはどうしたら良いでしょうか?

成年後見を申し立てるときは、医師の診断書を家庭裁判所に提出しますが、この診断書の中に判断能力に関する意見欄があります。

この判断能力に関する意見欄で、「後見相当」や「保佐相当」となっているなら、成年後見人や保佐人を選任しないと遺産分割協議をするのは難しいでしょう。

なお、医師の診断書のさいたま家庭裁判所のひな形は下記からダウンロードしてください。

成年後見用診断書

(都道府県によって診断書のひな形が違うと思いますので、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所で、ひな形を入手してください。)


意思の診断書をとってみて、「後見相当」や「保佐相当」との診断であれば、家庭裁判所に後見(保佐)開始の申立てをしましょう。

埼玉県内の成年後見申立については、当事務所でも承っておりますので、下記をご参照ください。


成年後見の申立にあたって、親族を後見人候補者とすることもできます。

ただ、財産が多かったり、親族間で争いがある場合などは、家庭裁判所は司法書士・弁護士などの専門職後見人を選ぶこともあります。

専門職後見人がついてしまうと、基本的にはご本人が亡くなるまで、ずっとついたままです。

この間、専門職後見人の報酬は、家庭裁判所が金額を決めて、ご本人の財産から支出されることになります。


後見人が遺産分割協議に参加

Bのために後見人が選任されたら、後見人がBに代わって遺産分割協議に参加します。

なお、後見人が上記図のCまたはDであった場合、被相続人Aに関する遺産分割協議にはCまたはDは後見人として参加できません。

なぜなら、CとDもAの相続人だからです。

相続人の立場と、Bの成年後見人の立場の両方で遺産分割協議に参加すると、利益相反行為となってしまいます。

Bの成年後見人がCまたはDだった場合は、遺産分割協議のために特別代理人を選任してもらわなくてはならなくなります。

この特別代理人の選任も家庭裁判所に申し立てるのです。

特別代理人の選任申立については、こちらのページをご参照ください。


被相続人Aに関する遺産分割協議にBの成年後見人または特別代理人が参加することになりますが、ここで問題があります。

成年後見人などは本人Bの権利を守るために行動しますから、遺産分割協議においてもBの法定相続分を確保する内容でないと承諾できません。

司法書士・弁護士などの専門職後見人であれば当然この様に行動しますし、一般の方が後見人や特別代理人になったとしても家庭裁判所は法定相続分を確保するように指導します。

従いまして、被相続人Aが生前に遺言等の準備をせずに亡くなった場合は、Aの相続財産の2分の1相当額はBが相続する内容の遺産分割協議しかできないでしょう。


上記のような制約を踏まえながら、遺産分割協議が整いましたら、相続登記や預貯金の相続手続を行います。

相続登記や預貯金の相続手続は当事務所でも承っております。詳しくは下記のページをご覧ください。


生前に準備できることはある?

相続人に認知症の人がいる場合は、成年後見人をつけても法定相続分を確保しなければなりません。

例えば、家族内の意向として子Cに多くの財産を相続させたいと思っても、Bの法定相続分を下回るような遺産分割協議はできませんので、困ってしまうケースも出てくるかもしれません。

これを回避するためには、Aが生前に遺言書を作っておけば、Aの死亡後、遺言書に基づいて不動産の相続登記や預貯金の相続手続ができました。

(なお、Aの遺言書がBの遺留分を侵害する内容であった場合、Bに成年後見人がついたときは成年後見人は遺留分減殺請求をすることになるでしょう。)

遺言書の詳細については、こちらをご参照ください。


また、家族信託という仕組みを使えば、Aの財産を子Cに託して、Cが認知症のBのために財産管理ということもできます。

家族信託についての詳細は、こちらをご参照ください。


成年後見人が遺産分割協議に参加するときの雛形


遺産分割協議書

被相続人 坂戸太郎
生年月日 昭和○年○月○日
本  籍 埼玉県東松山市○町○丁目○番地

 平成○年○月○日上記被相続人坂戸太郎の死亡により開始した相続における共同相続人全員は、民法908条に基づく遺言による分割の指定及び禁止のないことを確認したうえで、被相続人の遺産を協議により下記のとおり分割する。

1. 次の不動産は坂戸花子が相続する。

所  在  東松山市○町○丁目
地  番  ○番○
地  目  宅  地
地  積  ○○・○○㎡

所  在  東松山市○町○丁目 ○番地○
家屋番号  ○番○
種  類  居  宅
構  造  木造スレート葺2階建
床 面 積   1階 ○○・○○㎡
      2階 ○○・○○㎡


2. 次の預貯金は坂戸次郎が相続する。

○○銀行 東松山支店 普通預金 口座番号1234567

○○銀行 東松山支店 定期預金 口座番号1234567

ゆうちょ銀行 通常貯金 記号 ○○  番号 ○○○○○○


上記のとおりの協議が成立したので、この協議の成立を証明するために相続人ごとに本協議書を作成する。

平成○○年○○月○○日

埼玉県東松山市○町○丁目○番○号
坂戸花子
上記成年後見人
埼玉県東松山市○町○丁目○番○号
川越一夫  (実印)

埼玉県東松山市○町○丁目○番○号
坂戸次郎  (実印)

埼玉県東松山市○町○丁目○番○号
坂戸三郎  (実印)


詳しくは、後見人が参加するときの遺産分割協議ひな形のページをご覧ください。