相続登記をしないと困ること
不動産の相続登記をせずに放置すると、どんなことに困る可能性があるのか解説します。
たとえば、不動産の名義人が亡くなって、遺産分割をしないうちに、さらに相続人が亡くなったとします。
遺産分割をせずに何代も相続を繰り返すことによって、不動産の共有者がどんどん増えていって、収拾がつかなくなることが考えられます。
また、相続人が認知証等になって遺産分割の内容を理解できなくなった場合、成年後見人等をつけないと遺産分割ができなくなります。
行方不明の相続人が出てきた場合も、家庭裁判所で相続財産管理人を選任してもらわないと遺産分割ができません。
そして、2024年4月1日から相続登記が義務化されたので、相続登記の申請を怠ると、過料というお金の請求を受ける可能性があります。
相続が起こると不動産はどうなる?
例えば、不動産を持っているお父さんが亡くなり、相続人が長男、長女、二女の3人だったというケースで考えていきたいと思います。
この場合、相続人全員で遺産分割をしなければ、全ての相続人が法定相続分の割合で不動産を取得した状態となります。
法定相続分という民法上の割合に従って、不動産を共有している状態です。
民法第898条には、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」と定められています。
共有の割合ですが、民法第899条で、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」となっています。
そして、民法909条で、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と定められております。
つまり、遺産分割をしていない状態だと、相続人全員の共有で、お父さんの不動産を取得している状態ですが、相続人全員で遺産分割協議をすれば、お父さんが亡くなった時に遡って、その遺産分割で決めた人が不動産を取得したということになります。
この遺産分割をしないうちに、さらに相続人が亡くなるとどうなるでしょうか。
お父さんが亡くなって長男、長女、二女が相続人だったのですが、遺産分割をしないまま、さらに子ども達も亡くなったとします。
そうすると、お父さんの不動産について遺産分割するために子ども達それぞれの相続人が遺産分割に参加するという話になります。
例えば、長男に配偶者や子がいれば、この人達も遺産分割に参加するということになります。
長女や次女についても同じです。
相続人のさらに相続人が遺産分割に参加するので、相続を何代も繰り返すと、遺産分割に参加する相続人がどんどん増えていってしまうことになります。
遺言書がない場合の相続登記の手順
遺言書がない場合、不動産を誰かの単独名義に相続登記する際の手順について解説します。
まず、戸籍謄本を集めて、不動産の名義人の相続人が誰かということを証明できるようにします。
基本的には、被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの一連の戸籍謄本と相続人全員の現在の戸籍謄本が必要となります(事案によって、もっと複雑なこともあります)。
遺産分割をしないうちに、相続人が亡くなった場合、その相続人の相続人が誰かということを証明することになるので、相続を繰り返すことによって、必要となる戸籍謄本はどんどん増えていきます。
戸籍謄本を集め終えたら、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、その内容を遺産分割協議書にします。
この遺産分割協議書に、相続人全員が実印を押印して、印鑑証明書を添付します。
遺産分割をしないうちに、相続を繰り返して相続人が増えれば、実印と印鑑証明書が必要となる相続人が増えます。
面識のない相続人が出てくる可能性もあり、遺産分割がスムーズにできないかもしれません。
遺産分割がまとまらなければ、遺産分割調停・審判など家庭裁判所を使った手続をしないと、話が進まなくなる可能性があります。
相続人が認知症になってしまうと
遺産分割を先延ばしにした結果、相続人の誰かが認知症になると遺産分割ができなくなる可能性もあります。
例えば、お父さんが亡くなって、長男、長女、二女が相続人だったとします。
この状態で、遺産分割をせずに何年もほったらかしにしていたら、二女が認知症になってしまったとします。
認知症等で遺産分割の内容を理解できなければ、その相続人に成年後見人等をつけて、成年後見人等が遺産分割に参加しないと遺産分割ができないかもしれません。
なお、成年後見人がついた場合は、原則として、その相続人が法定相続分相当の財産を取得する内容でないと遺産分割ができません。
この事例でいうと、お父さんの相続人は子ども3人なので、二女の法定相続分は3分の1です。
成年後見人がついた場合は、二女に3分の1相当の遺産を渡す内容の遺産分割にするのが原則ということになります。
行方不明の相続人がいると
遺産分割を放置した結果、相続を繰り返し、相続人の中に行方不明の人が出てきてしまった場合、どうなるでしょうか。
この場合、まず、行方不明の相続人の戸籍をたどっていき、現在の戸籍謄本を取得します。
筆頭者と本籍が分かりますので、その内容で戸籍の附票を取得します。
戸籍の附票には、その戸籍にいる間における住民票上の住所が記載されています。
行方不明の相続人の住民票上の住所がわかりますので、その住所地に「相続手続に協力して欲しい」旨の手紙を送ってみることが考えられます。
手紙が届いて返事が返ってくれば、遺産分割について話し合いましょう。
手紙が届いたけれども、何にも音沙汰がないということであれば、遺産分割調停をしないと話が進まないかもしれません。
「あて所に尋ねあたりません」と記載された手紙が戻ってきた場合は、郵便局が、あて先の住所に受取人が居住していないと認識している状態です。
現地に行っても、そこに住んでいないようであり、他に連絡の取りようがない場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立てをすることが考えられます。
不在者財産管理人が選任されたら、不在者財産管理人と遺産分割協議をします。なお、不在者財産管理人が遺産分割をするには家庭裁判所の権限外行為許可を取る必要があります。
また、原則として、不在者の法定相続分を確保する内容の遺産分割にする必要があります。
相続人が少人数のうちに遺産分割をする
相続を繰り返して相続人の数が増えてしまうと、遺産分割が困難になる可能性があります。
二次相続、三次相続が始まらないうちに遺産分割をした方が良いでしょう。
また、生前に遺言書を作っておけば、相続人全員の実印の押印と印鑑証明書なしに不動産の相続登記ができます。
将来、遺産分割がまとまらないことが予想される場合は、遺言書を作っておくと良いでしょう。
遺言書について詳しくは拙著「家族が困らない遺言書の書き方」をご参照ください。
相続登記の義務化
2024年4月1日より不動産の登記が義務化されました。
申請義務を怠ると10万円以下の過料というお金を請求される可能性がありますので、ご注意ください。
相続登記義務化の基本ルールは、相続(遺言も含む)により不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないというものです。
遺産分割が成立していなくても、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。
そして、遺産分割が成立した場合の追加ルールもあります。
遺産分割の話し合いがまとまった場合には、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請しなければならないというものです。
いずれのルールも、正当な理由がないのに登記申請義務に違反した場合、10万円以下の過料というお金を請求される可能性があります。
なお、2024年4月1日より前に相続により不動産を取得したことを知っていたり、遺産分割が成立していた場合は、2024年4月1日から3年以内に登記を申請してください。
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