はじめに
遺言書は、相続開始後の手続に支障になることがないか想像して作ることが重要です。
相続開始後のことを考えて作らないと、いざ相続が開始したときに遺言書を使って相続手続できないかもしれないからです。
この記事では、遺言書作成時に注意しておくべき7つのポイントについて解説します。
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自筆証書遺言の書き方
第一の注意点は、自分で書く遺言書(自筆証書遺言)の書き方です。
自筆証書遺言の書き方は法律で決まりがあり、これを守っていないと無効な遺言となってしまいます。
その決まり(要件)は次のとおりです。
- 全文を自書すること
- 日付を自書すること
- 氏名を自書すること(署名)
- 押印すること
まず、自筆証書遺言は全文を手書きで書くのが原則です。
2019年1月13日に施行された改正民法によって財産目録は手書きでなく、ワープロやパソコンで作成することも可能となりました。
しかし、財産目録の各ページには署名押印が必要となりますので、注意しましょう。
詳しくは、記事「自筆証書遺言の財産目録をパソコン・ワープロで作成できる」をご参照ください。
次に、自筆証書遺言の注意点として、日付を書くことが挙げられます。
年月日を記載しましょう。
そして、署名押印を必ずしましょう。
押印がない自筆証書遺言をたまに目にしますが、相続手続には使えません。
法律上は認印でも良いことになっているので、必ず押印してください。
なお、実印で押印した方が、ご本人が遺言書を書いたことの裏付けの一つになりますので、できれば認印より実印を押印した方が良いでしょう。
ところで、司法書士をやっていると書き方を間違えて、相続手続に使えない自筆証書遺言を目にすることがあります。
また、専門家のサポートを受けずに作ったため、内容が不明瞭で相続手続をする際に、手続できなかったり、相続人全員の上申書が必要になったりするケースもあります。
その他、自筆証書遺言は1通しかないため紛失したりする危険もあります。
こうしたことをなくすためにも、自筆証書遺言よりも公証人が作る公正証書遺言の方が望ましいと思われます。
可能であれば公正証書遺言を選択しましょう。
どうしても、自筆証書遺言にする場合は、法務局にあずける方式にしましょう。
自筆証書遺言は、2020年7月10日から法務局に保管してもらえるようになりました。
法務局に保管すれば、紛失するという危険がなくなります。
また、通常の自筆証書遺言ですと、相続開始後に家庭裁判所の検認手続が必要となりますが、法務局に保管する方式であれば、相続開始後の検認手続が不要となります。
詳しくは、法務局への自筆証書遺言の保管申請の記事をご覧ください。
遺言書に使う文言
遺言書で財産を渡したい相手が、遺言者の相続人(推定相続人)である場合は、「○○に相続させる」という文言を使いましょう。
細かい説明は割愛しますが、「相続させる」という文言であれば不動産の相続登記をする際に、他の相続人または遺言執行者の関与なしに登記申請ができます。
相続人以外に財産を渡す場合は「○○に遺贈する」という文言を使います。
これ以外も文言、例えば「○○に任せる」などを使うと、どういう趣旨なのか疑義が生じることになります。
「相続させる」か「遺贈する」を使うようにしましょう。
なお、公正証書遺言の場合、相続人の特定は、氏名、続柄、生年月日で行うことが多いです。
続柄というのは、「遺言書の妻」、「遺言者の長男」、「遺言者の長女」のように書きます。
相続人以外の特定は、氏名、生年月日、住所ですることが多いです。
自筆証書遺言を作るときも、特定の方法として公正証書遺言と同じようにした方が望ましいと思います。
不動産の漏れ、不動産の表記
不動産を遺言書に書く場合は、不動産の漏れに気をつけましょう。
近所の人と共有で持っている私道を漏らしてしまうケースがあります。
名寄帳や公図を取って不動産の漏れを防止しましょう。
名寄帳は市町村役場の税務課(23区内は都税事務所)で取れる書類ですが、対象者の所有する不動産の一覧が出てきます。
不動産の漏れを防ぐのに役立ちます。
しかし、名寄帳に私道が出てこないケースもあるので、公図という地図を法務局で取って、土地の形や配置を調べます。
私道っぽい土地があった場合は、公図上から地番を確認して、不動産の登記事項証明書を取り、所有者を確認しましょう。
遺言書に不動産を特定して記載する場合は、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取って正確に記載しましょう。
固定資産評価証明書に記載してある情報は、登記事項証明書とは微妙に違っているケースがあります。
登記事項証明書のとおりに情報を記載しないと、相続開始後に登記ができない可能性がありますので、法務局で必ず登記事項証明書を取って確認しましょう。
預貯金の場合も通帳などを見て、特定できる情報を正確に記載しましょう。
なお、遺言書に預貯金の口座を書く際は、預貯金の残高は記載しません。
預貯金の残高は、今後、増減する可能性があるからです。
残高を書いてしまうと、その口座のうちの記載した額しか取得できないと解釈される可能性もあるので、残高は書かないようにしましょう。
財産を渡す人が先に亡くなっていたら
遺言書で財産を相続させる(または遺贈する)相手が、遺言者の死亡以前に亡くなっていると、基本的にはその部分の遺言書の効力が発生しなくなります。
「遺言者の有する不動産を遺言者の長男川越一郎(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる」というような条項を書いた場合、遺言者の死亡以前に一郎が亡くなっていたときは、その条項の効力が生じないことになります。
この問題に対応するために、財産を相続させる(または遺贈する)相手が死亡していた場合に備え、予備的な条項を書いておくことが考えられます。
「遺言者の死亡以前に前記川越一郎が死亡していた場合は、第〇条で同人に相続させるとした財産を同人の子川越次郎(平成〇年〇月〇日生)に相続させる」などと予備的条項を書くのです。
このようにすると、一郎さんが先に亡くなっていた場合は、一郎さんに相続させるはずだった財産を、一郎さんの子の次郎さんに相続させることができます。
この方式の問題点は遺言書の条項が長くなることなので、自筆証書遺言だとあまりに長いと限界があります。
その場合は、公正証書遺言にした方が良いでしょう。
遺言執行者を指定
遺言執行者を指定しないと、預貯金の相続手続で金融機関から相続人全員の実印と印鑑証明書を要求される可能性あります。
そうすると、相続人全員の協力が得られないと預貯金を払い戻しできないかもしれません。
そこで、遺言書の中で遺言執行者を指定しておくという対策が考えられます。
遺言執行者は士業とか銀行でなければいけない訳ではありません。
遺言執行者は身内でも良いので、家族の誰かを指定しておくことも考えられます。
財産を相続させる人を遺言執行者に指定しておくこと可能です。
遺言執行者を指定するときの条項は、「遺言者は、本遺言の遺言執行者として前記川越一郎を指定する。」などのように書きます。
貸金庫を開ける権限
亡くなった人が貸金庫を契約していた場合、貸金庫を開ける際に、相続人全員の実印・印鑑証明書を要求されたり、相続人全員の立ち合いを求められる可能性があります。
遺言執行者に貸金庫を開ける権限を与えておくと、遺言執行者が単独で貸金庫を開けられる可能性が高まりますので、貸金庫を契約している場合は、遺言執行者に貸金庫を開ける権限を与えておきましょう。
遺言書の条項は、「遺言者は、遺言執行者に対し、貸金庫の開扉、解約及び内容物取出しの権限を授与する。」などのように書きます。
話は変わりますが、遺言書は貸金庫に保管しないようにしましょう。
相続人全員の協力がないと貸金庫が開けられなかったり、遺言書で貸金庫を開ける権限を遺言執行者に与えていても、遺言執行者の手元に遺言書がないと貸金庫が開けられないからです。
遺留分に配慮するか?
遺留分は、遺族が受け取れる最低限度の相続分を保証するための制度です。
例えば、遺言者の相続人が長男と長女の二人であった場合、遺言者が「全財産を長女に相続させる」という遺言書を作ったときは、長男は財産をもらえないことになります。
しかし、長男には遺留分がありますので、遺留分を侵害された額について長女にお金を請求することができます。
遺留分の割合は、基本的に法定相続分の2分の1とお考えください。
(ただし、直系尊属のみが相続人のときは3分の1)
したがって、上記のケースだと、長男の法定相続分は2分の1ですから、その2分の1なので4分の1が遺留分となります。
なお、兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺言者は遺留分を侵害する内容の遺言書を作ることもできます。
ただ、その場合は、相続開始後に遺留分を有する相続人から「遺留分侵害額請求」をされるかもしれないということになります。
遺留分侵害額請求をされなければ、遺言書通りに財産を承継して終わりですが、遺留分侵害額請求をされたら、その分のお金を払わなければならないということになります。
遺留分侵害額請求権は、遺留分の侵害を知ったときから1年で時効となります。
また、相続開始から10年経過しても同様です。
以上のように遺留分の問題がありますが、これに配慮した遺言書にするかどうかは遺言者次第です。
遺留分に配慮しない遺言書でも、相続開始後に遺留分侵害額請求をされない可能性もあるからです。
相続開始後に、遺留分侵害額請求で争いを発生させたくないということなら、遺留分に配慮した遺言書にするということも一考です。
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