司法書士として仕事をしていると、相続や認知症の問題で空き家を売りたくても売れないというケースを見ることがあります。
今日は、その様な状況に陥らないために準備できることについて解説していきたいと思います。
日本の空き家状況
まず、日本の空き家の状況を見ていきましょう。
平成25年の総務省のデータですが、下の方の黒い棒グラフが空き家の戸数を表しています。
昭和48年からどんどん増えてきて、平成25年では全国に820万戸の空き家があります。
折れ線グラフは、空き家率を表しています。
これも、どんどん高くなってきて、平成25年には空き家率は13.5%となります。
約7戸に1戸は空き家ということになります。
将来的には、空き家率というのは、もっと高くなるのではないでしょうか。
なぜ、空き家が増えるのかと言うと、日本の人口が減少しているという点が挙げられます。
また、核家族化も進んでいます。
子どもが成長したら親とは暮さずに、自分の家を建てるので、どんどん家が増えていきます。
日本人は新築の住宅を好む傾向がありますし、国の政策も新築を優遇するような措置をとってきたので、住宅の供給は過剰となります。
新設住宅 着工戸数
日本における新設住宅の着工戸数とみてみましょう。
国土交通省の統計ですが、平成14年から平成28年までの件数を棒グラフにしています。
平成21年にリーマンショックが原因で落ち込んでいますが、その後は徐々に増えています。
空き家の数が多くなるにもかかわらず、新設住宅の建設は減少する気配がありません。
空き家の何が問題か?
空き家が発生すると何が問題となるでしょうか?
まずは、倒壊などの危険性があるということ。
衛生上有害であるということも挙げられます。
手入れがされていない空き家は景観を損ないます。
また、周辺の生活環境へ悪影響を及ぼすということも考えられます。
次のスライドから個々に詳しく見ていきましょう。
倒壊等の危険
倒壊の危険性から考えていきます。
空き家になって建物が劣化すると、屋根瓦や外壁材が落下するかもしれないです。
それによって怪我をしたり死亡する人が出てくる可能性もあります。
建物の劣化によって、ベランダ、窓、外階段なども落下するかもしれません。
劣化がひどくなれば、建物そのものが倒壊する可能性もあります。
建物以外でもブロック塀や門扉が倒壊し、死傷者がでるかもしれません。
雪国では積雪の落下によって被害がでることも考えられます。
また、手入れのされていない樹木が倒れる可能性もあります。
衛生上有害
次に、空き家の問題としては衛生上有害であるということが挙げられます。
例えば、ゴミ屋敷であったり、空き家であるためゴミの不法投棄が行われる可能性があります。
そして、そのゴミが腐敗すれば悪臭を放つことになります。
ゴキブリやシロアリなどの害虫が発生するかもしれませんし、害獣が繁殖する可能性もあります。
建物にアスベストが使用されていて、劣化によりむき出しになってしまえば、飛散するかもしれません。
景観を損なう
空き家が景観を損なうという問題もあります。
例えば、建物が見えないほどツタが多い茂ってしまったり、樹木や雑草が繁茂してしまえば、周りから見て気持ち良いものではありません。
空き家のドアやガラスが破損したままになっていても、地域の景観を損なうでしょう。
観光地においては、建物に関して、色々なルールが定められていることもありますが、放置された空き家はそのルールにも適合しなくて、周りに迷惑をかけるのではないでしょうか。
周辺の生活環境への影響
今まで述べた空き家の問題が周辺の生活環境へ悪影響を及ぼすこともあります。
例えば、立木の枝が隣家や道路にはみ出してしまえば、隣の住人や道路の通行人が困ることになるでしょう。
空き家で野良猫等が繁殖すれば、鳴き声も周辺住人の迷惑になりますし、他の敷地に入ってきて糞尿被害を及ぼすかもしれません。
空き家でシロアリが発生すれば、そのシロアリは近隣の住宅にも来る可能性があります。
また、空き家に不審者が住み着くようになったり、放火されたりするかもしれません。
その様なことになれば、周りの住人にも影響がでるでしょう。
空き家を放置することのリスク
空き家を放置した場合、どんなリスクがあるのか考えてみましょう。
まず、空き家の手入れを定期的にしないことにより、後々、維持管理費・改修コストが増加する可能性があります。
また、空き家に起因する事故が起きた場合、損害賠償を請求されるかもしれません。
放置することが不適切な空き家であると行政に判断されれば、場合によっては固定資産税などの税負担が増加する可能性があります。
これらについて、個々に見ていきましょう。
維持管理費・改修コストの増加
空き家の放置により、維持管理費・改修コストが増加する可能性があるとはどういうことでしょうか?
家の大敵は湿気です。
空き家を放置して風通しをしないと湿気が溜まっていきます。
その湿気が原因でシロアリが発生したり、金属部品が錆びる可能性があるのです。
定期的に風通し作業をしなかったことにより、シロアリや錆びが発生してしまい改修コストがかかってしまうかもしれません。
電気を止めていない空き家の場合は、ネズミが電気配線を食いちぎったり、コンセントにホコリが溜まりトラッキング現象による火災が発生する可能性もあります。
火災が起きてしまえば、大変な損害になってしまうでしょう。
また、洗面所や流しの排水溝は、S字になって水が溜まるようになっており、下水管からの臭気を止める構造になっています。
この排水トラップの水が無くなってしまうと、臭いはもちろん、そこからゴキブリや小動物が家の中に侵入してくるかもしれません。
ゴキブリや小動物が家の中で糞をすれば、ダニが発生したり、畳やフローリングが腐食してしまう原因にもなります。
屋根や外壁が劣化すれば、そこから雨水が侵入してきます。
雨水によりカビが繁殖したり、柱などの木材が腐食してしまえば、リフォームには多くのお金が必要となってしまいます。
家は人が住んでいないと劣化が進みますので、定期的なメンテナンスが必要なのです。
損害賠償の試算
空き家が原因で事故などが起こった場合の損害額の試算を公益財団法人日本住宅センターが行っています。
試算された損害額を見てみましょう。
まず、空き家が火災になり隣の家が全焼し死亡事故が発生した場合の損害額ですが、6375万円と試算されております。
空き家が倒壊して隣の家が全壊し、死亡事故が発生した場合の損害額は、2億860万円と試算されております。
シロアリ・ネズミが発生した場合の駆除被害は23万8000円です。
空き家の外壁材が落下して児童が死亡した場合の損害額は5630万円と試算されております。
個々の事案によって損害額は異なりますが、空き家が原因で事故が発生すれば数千万単位の損害賠償を請求される可能性もあるということです。
空き家の管理を適切に行っていかないと、大変なことになるかもしれません。
特定空き家に対する役所の対応
空き家のうちそのまま放置すれば倒壊などの危険があったり、衛生上有害であったり、景観を損なっていたり、周辺の生活環境に悪影響があるものについて、役場は次の様な対応を取ります。
まずは、助言・指導です。
例えば、ベランダが落下しそうな場合、「ベランダを除却するか修繕してください」などの助言・指導を役場が行います。
助言・指導がなされた場合、この時点で対応するのが望ましいです。
対応しなかった場合、役場はベランダを除却するか修繕するように勧告を出します。
勧告がなされた場合、住宅用地特例の対象から外され、固定資産税が6倍、都市計画税が3倍となってしまいます。
こうならないためにも前段階の助言・指導のときに対応すべきでしょう。
勧告がなされても対応しなかった場合、今度は命令を役場が出します。
これは行政代執行の一歩手前です。
命令によっても対応しなければ、役場が代わってベランダの除却や修繕を行います。
これを行政代執行と言います。
役場が行政代執行すれば除却費・修繕費は払わなくて良いかと言うと、そんなことはありません。
行政代執行にかかった費用は請求されます。
払わなければ、役場は財産を差し押さえて行政代執行の費用を回収しようとするかもしれません。
こうならないためにも、役場から助言・指導がなされた段階で対応するのが良いと思われます。
次のページからは認知症で空き家を売却できないことを防ぐ方法について解説します。