認知症で空き家の売却に困らないように準備する方法の続きです。
相続で空き家が発生する原因
認知症につづいて、相続で空き家が発生する原因を見ていきましょう。
まず、相続手続が滞ると、空き家を売りたくても売れなくなってしまうということが挙げられます。
これは、遺産分割協議の話がつかなかったり、相続人の中に認知症や行方不明の人がいるなどの場合です。
また、不動産を共有で相続してしまうと、共有者の意思統一が難しくなって、売れなくなると言うケースもあります。
その他、相続人全員が相続放棄をしてしまっても空き家を処分する人がいなくなってしまうので、空き家問題が発生します。
個々に詳しく見ていきます。
共有で相続すると…
お父さんの持っていた不動産があって、お父さんが亡くなった後、子ども二人で共有で相続登記したとします。
不動産を直ぐに売ってしまうなら共有で登記しても問題はないのですが、共有のまま何十年も経つとどうなるでしょうか?
何代にも渡って相続がおこると、共有者が初めの二人の孫やひ孫になる可能性があります。
そうすると、初めの二人の孫やひ孫同士がお互いに面識があるのかも分からなくなってきます。
不動産を売ろうにも共有者全員の協力が必要になりますから、面識のない者同士で不動産を共有していると売却に支障をきたします。
また、相続によって、どんどん共有者が増える可能性もあります。
初めは二人で共有していたものが、相続がおきて、その相続人が複数いると共有者が増えます。
何代にも渡り相続が重なると、共有者の数はネズミ算式に増えるでしょう。
共有者が10人、20人と増えてしまえば、不動産を売るときに全員の協力を得るのは難しくなるでしょう。
相続人全員が相続放棄すると
不動産を持っていた人の相続人が全員相続放棄するとどうなるでしょうか?
相続放棄すれば、亡くなった人の持っていた空き家は管理してくて済むでしょうか?
実は、相続放棄しても空き家を管理し続けなくてはならないかもしれません。
民法第940条には次のように書いてあります。
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」
したがって、相続放棄をしても、次に管理する人がいなければ、ずっと空き家を管理しなければならないのです。
全員が相続放棄をしてしまった場合は、相続財産管理人を家庭裁判所で選んでもらって、相続財産管理人に管理を引き継ぐしかありません。
ここで問題なのは、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てると、家庭裁判所は100万円ぐらい予納金を納めるように言ってくるかもしれないのです。
空き家の管理を免れるために、100万円の予納金を負担せざるを得ないケースもあるかもしれません。
相続手続の流れ(遺言がないとき)
共有と相続放棄の問題点を見てきましたが、次は相続手続が滞って空き家の売却ができないケースについて解説します。
遺言書がない場合、不動産の相続手続は次のような流れになります。
まず、亡くなった人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本などを集めて相続人が誰なのかということを確定します。
そして、亡くなった人の相続財産を調査した後、財産の分け方を相続人同士で話し合います。
話がついたら遺産分割協議書を作って相続人全員の署名捺印(実印)をします。
戸籍謄本や遺産分割協議書(印鑑証明書付)を使って、不動産の相続登記や預貯金・株式の相続手続などをします。
次に、遺産分割協議書のサンプルを見てみましょう。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書には不動産は誰が相続するとか、預貯金は誰が相続するとかを記載して、相続人全員の実印を押印します。
実印を押印して、印鑑証明書を添付しなければならないので、これができないと相続登記ができないのです。
遺産分割協議ができるか?
要するに、相続人全員での遺産分割協議がまとまらないと、相続手続が滞ってしまいます。
相続登記ができない以上、亡くなった人の持っていた不動産を売ることはできません。
所有者の死亡により空き家となっていても、売却できないのです。
遺産分割協議がまとまらなくて相続手続が進まないことを防ぐには、生前に遺言書を作ることです。
推定相続人の仲が悪いとき
遺産分割協議がまとまらないケースとして代表的なのは相続人の仲が悪いときです。
どういうことが揉めごとの原因になるかというと、例えば、子どものうち一人だけ親と同居して介護をしたようなときです。
親の生前に子どものうち一人だけ贈与を受けたようなときも揉めるかもしれません。
自宅不動産しか財産がないようなときも分けるのが難しくなるかもしれません。
また、兄弟間は仲が良くても、それぞれの配偶者が口を出してくる可能性もあります。
売れない不動産があるような場合もスムーズに遺産分割協議ができない怖れがあります。
この様に遺産分割協議がまとまらないことが予想される場合は、生前に遺言書を作っておき、遺言書の中で財産の分け方を指定すればよいのです。
相続開始後、遺言書を使えば、遺産分割協議をせずに相続手続ができます。
不動産の相続登記も遺言書を使ってできますので、相続登記ができずに空き家が売却ができないということにはなりません。
子どもがいないとき
子どもがいない夫婦の場合も、遺産分割協議が難航する可能性があるので、遺言書を作っておきましょう。
例えば、カツオに妻がいて、その間に子どもがいなかったとします。
カツオの両親は既に他界してしますが、姉と妹がいたとします。
カツオが亡くなると、妻の他に姉と妹も相続人となりますから、遺産分割協議に実印を押印してもらうことになります。
妻からすれば、夫の兄弟姉妹と遺産分割協議の話をするのは抵抗があるのではないでしょうか。
カツオが生前に全財産を妻に相続させる旨の遺言書を作っておけば、その遺言書を使って不動産の相続登記が可能となります。
姉や妹の実印と印鑑証明書がなくても手続できるのです。
前の配偶者との子がいるとき
前の配偶者との間に子どもがいるときも遺言書を作っておいた方が良いです。
例えば、波平が以前結婚していて前妻との間に子がいた場合、この子も波平の相続人となります。
波平が死亡した場合、配偶者のフネ、子サザエ、カツオ、ワカメは前妻との間の子も交えて遺産分割協議をしなくてはなりません。
前妻との間の子と交流がなく、連絡先もしらなければ遺産分割協議が難しくなります。
生前に遺言書を作っておき、スムーズに相続登記ができるようにしておくべきです。
推定相続人の中に認知症の人がいるとき
将来相続人になる予定の人の中に認知症の方がいる場合、遺産分割協議ができません。
波平の配偶者フネが既に認知症で判断能力がなかったとします。
波平が死亡すると、フネと子ども達が相続人となりますが、フネには判断能力がないので遺産分割協議ができません。
フネに成年後見人をつけないと遺産分割協議ができずに相続手続が滞ります。
また、将来の相続人の中に行方不明の人がいる場合も、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てなくてはなりません。
将来の相続人の中に認知症や行方不明の人がいる場合は、遺言書を作っておいた方が良いでしょう。
自筆証書遺言(自分で書く遺言)
自分で書く遺言書は、書き方が決まっています。
民法968条は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と規定しています。
つまり、日付、氏名を書く必要があり、押印しなければなりません。
また、全部自分で手書きする必要があります。
ワープロやパソコンで作ることはできません。
上記の作り方を間違えると、無効な遺言書になってしまいます。
自筆証書遺言の例
自筆証書遺言の記載例を見てみましょう。
残財産を妻に相続させるという内容の遺言書です。
日付、氏名を書き押印してあります。
また、全文を手書きしております。
問題のある自筆証書遺言の例
自筆証書遺言が無効になるケースとして良くあるものを挙げてみます。
まず、押印がなかったり、日付がなかったりするものです。
また、一つの遺言書を二人で書いてはいけません。
夫婦連名で遺言書を作っても無効です。
それぞれ、別の遺言書を書きましょう。
あと、基本的には相続人には「相続させる」、相続人以外には「遺贈する」という文言を使いましょう。
「まかせる」、「一任する」、「お願いする」などの文言はどういう趣旨なのかはっきりしませんので、相続手続時に困ってしまうでしょう。
その他、不動産はなるべく共有で相続させないようにしたり、遺言執行者を定めておいたりした方が良いです。
記載してある財産に漏れがある場合も、漏れた財産については遺産分割協議が必要になってしまうかもしれません。
訂正方法を間違えていることもよく見かけます。
自筆証書遺言の訂正方法は決まっていますので、間違えると訂正したことが無効となります。
間違えた場合は新しい物を書き直した方が良いでしょう。
自筆証書遺言は
自筆証書遺言は書き方を間違えて無効になったり、不明瞭な書き方により相続手続が大変になったりするケースが少なくないです。
他の相続人が「偽造だ」と言い出すこともあるでしょう。
また、自筆証書遺言の場合は、相続開始後に家庭裁判所での検認手続が必要となります。
検認とは、遺言書があったことを法定相続人全員に知らせて、その遺言内容を家庭裁判所で記録する手続です。
検認手続の分、相続手続も時間がかかってしまうことになります。
なお、自筆証書遺言の場合、銀行によっては亡くなった人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本を要求したり、相続人全員の実印と印鑑証明書を要求することもあるようです。
お勧めは公正証書遺言
遺言は自筆証書遺言ではなく、公証役場で作る公正証書遺言にした方が良いでしょう。
公正証書遺言は公正人が作りますので、形式を間違えて無効になるということはほぼないでしょう。
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されますので、万が一、手元の遺言書が無くなっても再交付してもらえます。
また、自筆証書遺言と違って、相続開始後に家庭裁判所の検認手続が不要です。
つまり、自筆証書遺言よりも相続手続がスムーズに行えます。
なお、公証役場に行くことができない場合は、公証人の手数料が高くなりますが、公証人に病院・自宅・施設などに出張してもらうこともできます。
公正証書遺言のデメリット
公正証書遺言のデメリットは、まず、公証人の手数料がかかるということでしょう。
ただ、相続手続を確実にスムーズに行うことを考えれば決して高いとは言えません。
遺言書を作成する段階で費用を節約できたとしても、相続手続ができなかったり、大変になってしまっては、結局、相続時に高くついてしまいます。
なお、公正証書遺言では証人が二人必要です。
公正証書遺言の作成サポートを専門家に依頼すれば専門家の方で証人になるでしょう。
公正証書遺言の作成を専門家に依頼したときの流れ
公正証書遺言の作成を専門家に依頼すると概ね次の様な流れになります。
まずは、面談を行い、どんな遺言書を作りたいのかヒアリングします。
登記簿謄本、戸籍謄本、印鑑証明書など必要な書類を収集します。
公証人と遺言書の内容を協議します。
公証人の作成した原稿案を確認して、内容がよろしければ公証役場に行く日を予約します。
証人二人と公証役場に行き、遺言書を完成させます。
公正証書遺言の文例
公正証書遺言の文例です。
不動産は誰が相続するだとか、預貯金は誰が相続するだとか記載します。
公正証書遺言で不動産を相続する人を指定しておけば、相続開始後にスムーズに相続手続ができます。
相続手続が難航して、空き家を売るに売れないという状況を防ぐことができます。
スムーズは相続手続のために
相続トラブルの大半は遺産分割協議が調わないことです。
対策は生前に公正証書遺言を作成しておくことです。
認知症・相続対策はいつから始めれば良いのか?
遺言書を作るのも、任意後見契約や家族信託契約を結ぶのも、判断能力がないとできません。
認知症で判断能力が低下した後では手遅れになります。
できるだけ早く対策を始めた方が良いと思われます。
まとめ
今回、述べてきたことをまとめます。
まず、認知症で空き家を売れない事態を回避するには、元気なうちに任意後見契約か家族信託を組んでおくことです。
法定後見制度では不動産を売れない可能性があります。
次に相続手続の難航で空き家を売れない事態を防ぐには、元気なうちに公正証書遺言を作成しておくことです。
遺産分割協議がいらなくなりますので、相続手続がスムーズに行えます。
できるだけ早めに対策を始めましょう。