質問
信託期間中に受託者が亡くなった場合はどうなりますか?
回答
受託者が亡くなった場合に気を付けなくてはならないのは、新受託者が就任しない状況が1年続くと信託が強制的に終了となってしまうことです。
信託法第163条3号に定められています。
第百六十三条 信託は、次条の規定によるほか、次に掲げる場合に終了する。
三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
従いまして、信託契約を組む段階で、万が一、受託者が途中で亡くなったり判断能力が低下したりする場合に備えて、後継の受託者を指定しておくか、後継受益者の指定方法を決めておいた方が良いでしょう。
信託法第62条には次の様に定められておりますので、信託契約書の中に新たな受託者に関する定めがあれば、その方法により新受託者が決まります。
第六十二条 第五十六条第一項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、信託行為に新たな受託者(以下「新受託者」という。)に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより新受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず、若しくはこれをすることができないときは、委託者及び受益者は、その合意により、新受託者を選任することができる。
2 第五十六条第一項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了した場合において、信託行為に新受託者となるべき者を指定する定めがあるときは、利害関係人は、新受託者となるべき者として指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就任の承諾をするかどうかを確答すべき旨を催告することができる。ただし、当該定めに停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件が成就し、又は当該始期が到来した後に限る。
3 前項の規定による催告があった場合において、新受託者となるべき者として指定された者は、同項の期間内に委託者及び受益者(二人以上の受益者が現に存する場合にあってはその一人、信託管理人が現に存する場合にあっては信託管理人)に対し確答をしないときは、就任の承諾をしなかったものとみなす。
4 第一項の場合において、同項の合意に係る協議の状況その他の事情に照らして必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、新受託者を選任することができる。
5 前項の申立てについての裁判には、理由を付さなければならない。
6 第四項の規定による新受託者の選任の裁判に対しては、委託者若しくは受益者又は現に存する受託者に限り、即時抗告をすることができる。
7 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。
8 委託者が現に存しない場合における前各項の規定の適用については、第一項中「委託者及び受益者は、その合意により」とあるのは「受益者は」と、第三項中「委託者及び受益者」とあるのは「受益者」と、第四項中「同項の合意に係る協議の状況」とあるのは「受益者の状況」とする。
信託契約書に定めがなければ、委託者と受益者の合意で新受託者を選任できます。
委託者が存在しなくなっていた場合は、受益者のみで選任します。
最終手段として裁判所が新受託者を選任できるともされていますが、どうなるか分からないので、裁判所の手を借りずとも新受託者を選任できるようにスキームを設計しておくべきでしょう。
信託スキームを組む際は、受益者の年齢などからその信託が何年ぐらい続くのかも検討し、その期間においてずっと受託者が信託事務を行えるのか考える必要があります。
受託者が信託期間中に亡くなったり、信託事務を継続できないような状況になる可能性も考え、そうなった場合に新たな受託者をスムーズに選任できるように設計しなければなりません。
ところで、同時に二人以上の受託者をつけることを希望される方もいらっしゃいます。
複数の受託者がいる場合、信託事務はどう取り扱うのでしょうか。
信託法第80条に受託者が複数いる場合の事務処理について定めています。
(信託事務の処理の方法)
第八十条 受託者が二人以上ある信託においては、信託事務の処理については、受託者の過半数をもって決する。
2 前項の規定にかかわらず、保存行為については、各受託者が単独で決することができる。
3 前二項の規定により信託事務の処理について決定がされた場合には、各受託者は、当該決定に基づいて信託事務を執行することができる。
4 前三項の規定にかかわらず、信託行為に受託者の職務の分掌に関する定めがある場合には、各受託者は、その定めに従い、信託事務の処理について決し、これを執行する。
5 前二項の規定による信託事務の処理についての決定に基づく信託財産のためにする行為については、各受託者は、他の受託者を代理する権限を有する。
6 前各項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
7 受託者が二人以上ある信託においては、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。ただし、受益者の意思表示については、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
原則的には、受託者が二人以上いる場合は、事務処理は受託者の過半数で決めることになります。
したがって、受託者が同時に複数いるような信託では、事務処理に際して受託者同士で多数決を取ることになります。
スムーズに事務処理が進みませんし、受託者が二人の場合、意見が合わないとどちらも過半数になりませんから事務処理を決められなくなります。
特に深い理由がない場合は、事務処理をスムーズに行うために受託者は一人にしておいた方が良いでしょう。
詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。
家族信託 よくある質問
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