質問

空き家対策に家族信託を活用する方法はありますか?


回答

自宅不動産に住む人がいなくなり空き家となる主な原因に「相続」と「認知症」があります。

「相続」が原因となるのであれば所有者が生前に遺言書を作っておけば対応できるかもしれませんが、「認知症」が原因となる場合では遺言書では対応できません。

なぜなら、遺言書の効力が発生するのは、遺言をした人が亡くなったときからだからです。

この点、家族信託であれば、生前から効力を生じさせられるので、認知症になった場合でも不動産の売却や管理に困りません。


認知症になったら成年後見制度で対応するのはどうでしょうか?

成年後見制度(法定後見)の場合、成年後見人をつけたとしても、自宅不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要となります。

本人(成年被後見人)に十分な預貯金があり、それで生活費・施設費・介護費などをまかなえるのであれば、家庭裁判所は不動産の売却許可を出さないと思われます。

すると、施設等に移り、誰も住んでいないのに自宅不動産を売却できずに、固定資産税などの維持費を払い続けなくてはならなくなります。

また、成年後見人になる人を選ぶのは家庭裁判所なので、司法書士や弁護士などが成年後見人になってしまうと、後見人報酬が継続的にかかるようになってしまいます。

不動産を売却したから成年後見人を止めてくれという訳にはいかず、本人の判断能力が回復しない限りはずっと後見人がついたままとなります。

この点、家族信託であれば受託者に家族がなれますので、受託者としての報酬を受け取らないという取り決めにもしておけます。


財産管理委任契約の場合はどうでしょうか?

財産管理委任契約は本人の判断能力がある状態で、財産の管理処分を代理人に委任するというものです。

しかし、不動産を売る場合、司法書士は売主さん本人の意思確認を行いますので、財産管理委任契約を結んだからといって、代理人だけで不動産が売れるという訳にはいきません。

この点、家族信託なら組成段階では本人の意思を確認しますが、組成後に受託者が不動産を売却するときは受託者の意思確認を行うことになります。


認知症になったら不動産を売れないなら、認知症になる前に家族に不動産を贈与してしまって、その後、家族が不動産を売れば良いのではないかという考えもあるかもしれません。

しかし、贈与の場合は10~55%の高額な贈与税が課されます。

また、贈与登記をする際に不動産評価額の2%の登録免許税がかかります。

不動産評価額の3~4%の不動産取得税も贈与の場合はかかるのです。

この点、家族信託の場合は、元の不動産所有者(委託者)と信託財産から利益を受ける人(受益者)が同一であれば贈与税はかかりません。

登録免許税も不動産評価額の0.3~0.4%であり、贈与登記の5分の1以下です。

信託の場合は不動産取得税もかかりません。

税金的なコストを考えると、生前贈与よりも家族信託の方がコストを抑えられます。


それでは、親御さんの自宅不動産をお子さんに信託して、万が一、親御さんが認知症になったときにお子さんが不動産を売却する仕組みについて解説します。

親御さんが元気なうち(判断能力があるうち)にお子さんと信託契約を結びます。

そして、不動産の名義を形式上、お子さんに移します。

なお、財産を元々もっていた親御さんを委託者、財産を託されたお子さんを受託者と呼びます。

信託契約の中で受託者となったお子さんに、不動産の管理や売却の権限を与えておきます。

信託をした後も、親御さんは信託財産からの利益を受ける人(受益者)として、自宅不動産に住み続けられます。

その後、親御さんが認知症になって施設等に移住したら、受託者であるお子さんの判断で不動産を売却できます。

親御さんに成年後見人をつけることなく、不動産の売却ができるのです。

なお、不動産の売却代金は受託者であるお子さんが受け取りますが、お子さんのものになる訳ではなく、受益者である親御さんのために使います。

親御さんに生活費などとして渡したり、親御さんの施設費・医療費・介護費の支払に充てたりするのです。

以上のとおり、家族信託を予め組んでおけば、認知症になっても空き家となった自宅をスムーズに売却することが可能です。

詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。


家族信託 よくある質問

  1. 家族信託とは何か?
  2. 家族信託のメリットは何ですか?
  3. 成年後見制度では相続税対策ができないのですか?
  4. 家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?
  5. 家族信託の費用はいくらぐらいかかりますか?
  6. 信託銀行の遺言信託をしてますが家族信託はできますか?
  7. 家族信託の受託者の責任や義務を教えてください
  8. 受益者連続信託を行う期間に制限はありますか?
  9. 信託契約を変更することはできますか?
  10. 受託者が亡くなった場合はどうなりますか?
  11. 受益者と受託者が同じ人になってしまった場合はどうなりますか?
  12. 受益者連続信託を行った場合、遺留分はどうなりますか?
  13. 遺言代用信託で承継者を変更できないようにすることはできますか?
  14. 信託する際の登記の登録免許税はいくらかかりますか?
  15. 受益者代理人とはなんですか?
  16. 遺言書(遺言信託)と家族信託の違いは何ですか?
  17. 家族信託を組むと不動産取得税はかかりますか?
  18. 家族信託・民事信託のデメリットは?
  19. 親の預金を認知症で凍結させない予防法
  20. 認知症で判断能力がないから成年後見人が必要であると誰が判断するのか?
  21. 土地1500万円、建物500万円、現金1500万円のときの家族信託の費用目安
  22. 土地1000万円、建物500万円、現金1000万円のときの家族信託の費用目安
  23. 土地2000万円、建物500万円、現金2500万円のときの家族信託の費用目安
  24. 家族信託と財産管理委任契約(任意代理契約)はどう違う?
  25. 家族信託の受託者になれる人の範囲は?
  26. 家族信託の契約書は公正証書で作る?私文書でも大丈夫?
  27. 空き家対策に家族信託を活用する方法はありますか?
  28. 損益通算の禁止規定とは何ですか?
  29. 家族信託と遺言書はどちらが優先しますか?
  30. 年金受給権を家族信託できますか?
  31. 受託者の使い込みが心配です。どうすれば良いでしょうか?
  32. 信託口口座についてペイオフ対策は必要ですか?
  33. 家族信託の手続きは自分でできますか?
  34. 家族信託した不動産を売却するときはどんな登記をしますか?
  35. 信託終了後、受託者でもある帰属権利者に所有権移転登記する際の登録免許税は?
  36. 家族信託の必要書類は?
  37. 家族信託で親の生活費に困らないようにするには
  38. アパートオーナー(賃貸経営者)の認知症対策に家族信託を活用するには
  39. 家族信託で認知症の配偶者に財産を相続させるには
  40. 家族信託をすると税金はどうなる?
  41. 家族信託が必要ないケースは?
  42. 任意後見制度とは?
  43. 家族信託を始めるタイミングは?
  44. 士業などに信託監督人を頼むのは必須ですか?
  45. 家族信託の契約書のサンプルを見せてください
  46. 家族信託の受益権は遺産分割協議や遺言の対象となりますか?

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