質問
不動産を信託した場合、損益通算の禁止規定があると聞きました。
損益通算の禁止とはどういうことでしょうか?
回答
信託財産の形式的な所有者は受託者ですが、税務上は受益者を信託財産の所有者とみなして課税関係を考えます。
受益者が信託財産に属する資産・負債をもっているものとみなし、信託財産に係る収益・費用も受益者に帰属するものとみなします。
したがって、賃貸物件を信託した場合、そこから発生する不動産所得については受益者が確定申告を行います。
注意しなくてはならないのは、不動産を信託した場合、損益通算の禁止規定(租税特別措置法第41条の4の2)があることです。
個人が受益者である信託において、信託した不動産から生じた損失がある場合には、その損失がなかったものとみなされます。
信託した不動産に修繕や取壊しなどにより多額の損失が発生した場合、その損失を他の不動産所得や他の所得と損益通算ができません。
例えば、A不動産とB不動産を親御さんがもっていて、A不動産だけを信託し、B不動産は所有権のまま親御さんがもっていたとします。
A不動産に100万円の赤字が出て、B不動産は100万円の黒字だったとしても、A不動産の赤字をB不動産の黒字から差し引きできません。
B不動産の黒字に対する所得税を払わなくてはならないので、税金的に損をする可能性があります。
また、個人が受益者である信託において、信託した不動産から生じた損失を将来に繰り越すこともできません。
100万円の赤字が出た場合、翌年の黒字から差し引くこともできないということになります。
したがいまして、将来的に修繕や取壊しなどを予定し、多額の損失の発生が見込まれる不動産を信託する場合は、税理士とよく相談する必要があります。
損益通算ができないというデメリットと、信託をしなかった場合のデメリット(財産が凍結してしまうリスクなど)を比較して、家族信託を導入するかどうか検討します。
詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。
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