質問

家族信託の受託者にはどんな責任や義務がありますか?


回答

帳簿の作成

まず、受託者は信託財産を管理していますので、帳簿をつけなくてはなりません。

そして、毎年一回は財産目録(ケースによっては貸借対照表や損益計算書)などを作成します。

どの程度の帳簿が要求されるかは、信託のケースによって異なってくるでしょう。

例えば、自宅不動産を管理するために家族信託を組んだようなケースで、お金の流れが預金通帳で分かるなら預金通帳を帳簿としても良いでしょう。

現金での取引があるなら、市販されている現金出納帳などを買って、それをつけておきましょう(領収書やレシートも保管)。

そして、年に1回、財産目録を作成します。財産目録には信託財産の一覧を書いておきましょう。


賃貸物件を信託した場合は、通常の不動産所得者がつける帳簿と同程度のものを作っておきましょう。


なお、信託財産にかかる収益の額の合計が3万円(計算期間が1年未満の場合は1万5千円)以上の場合、信託の受託者は翌年1月31日までに「信託の計算書」を税務署に提出しなければなりません。

「信託の計算書」の用紙については国税庁のホームページをご参照ください。

「信託の計算書」を受託者がご自身で作成しない場合は、税理士に依頼する必要があります。


また、信託につき贈与や相続と認識される事由が生じた場合も、受託者は翌月末日までに税務署に「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を提出しなければなりません。

用紙は国税庁のホームページをご参照ください。


責任

信託に関して受託者が対外的に取引した場合、その債務は信託財産だけで責任を負うのではなく、受託者も無限責任を負うのが原則です。

例えば、信託している建物のリフォームを受託者が業者に頼んだとします。

リフォーム代金が信託財産で払えれば問題ありませんが、万が一、払えないとすれば受託者の個人財産から払わなくてはなりません。


建物等の工作物には所有者責任があり民法第717条1項に定められております。

第717条1項  土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

建物等が信託された場合、受託者は所有者となりますので、この所有者責任を負います。

例えば、建物の瓦が落下して通行人が怪我をした場合、損害賠償請求されますが、信託財産で対応できなければ受託者の固有財産をもって責任を果たさなければなりません。


また、受託者は対外取引をした場合、瑕疵担保責任も追います。

信託された建物を売った場合、その建物に隠れた瑕疵(例えばシロアリに食われいた)があったら損害賠償請求されるかもしれません。
(ただ、古い建物の場合、売買契約のときに瑕疵担保責任を免責する特約をつけておくこともあります。)

信託財産で損害賠償請求に対応できなければ、受託者個人が責任を負うようです。


受託者が任務を怠ったことによって信託財産に損失または変更が生じた場合、受益者は受託者に損失てん補または原状回復を要求できます。


受託者には以上のような責任もあるので、家族信託の受託者は委託者と強い絆のある人でないと難しいのではないでしょうか。

親子、将来の相続人などであれば、以上のような責任を負うリスクを踏まえつつも受託者なってくれるかもしれません。

しかし、遠い血縁や、全くの第三者である場合、なかなか受託者への就任は難しいのではないでしょうか。


義務

受託者には善管注意義務があります。

信託の事務処理を担う同じ社会的地位にある者が負担するぐらいの注意義務が受託者に課せられます。


受託者は忠実義務も課せられています。

受託者は、受益者のために忠実に信託事務の処理等を行わなければなりません。

利益相反取引についても原則的に禁止されています。

利益相反取引を予定している場合は、スキーム設計の段階でケアを考えておきましょう。


受託者は信託財産を自己の財産や他の信託財産と分別して管理する義務も負います。

不動産については信託の登記をする必要があります。

お金についても自分の預金口座のお金とごっちゃにしてはいけません。

信託用の口座を作り、そこで管理しましょう。


その他、受託者には公平義務(信託法33条)、事務委託の義務(信託法35条)、報告・保存等の義務(信託法36-39条)などもあります。

詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。


家族信託 よくある質問

  1. 家族信託とは何か?
  2. 家族信託のメリットは何ですか?
  3. 成年後見制度では相続税対策ができないのですか?
  4. 家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?
  5. 家族信託の費用はいくらぐらいかかりますか?
  6. 信託銀行の遺言信託をしてますが家族信託はできますか?
  7. 家族信託の受託者の責任や義務を教えてください
  8. 受益者連続信託を行う期間に制限はありますか?
  9. 信託契約を変更することはできますか?
  10. 受託者が亡くなった場合はどうなりますか?
  11. 受益者と受託者が同じ人になってしまった場合はどうなりますか?
  12. 受益者連続信託を行った場合、遺留分はどうなりますか?
  13. 遺言代用信託で承継者を変更できないようにすることはできますか?
  14. 信託する際の登記の登録免許税はいくらかかりますか?
  15. 受益者代理人とはなんですか?
  16. 遺言書(遺言信託)と家族信託の違いは何ですか?
  17. 家族信託を組むと不動産取得税はかかりますか?
  18. 家族信託・民事信託のデメリットは?
  19. 親の預金を認知症で凍結させない予防法
  20. 認知症で判断能力がないから成年後見人が必要であると誰が判断するのか?
  21. 土地1500万円、建物500万円、現金1500万円のときの家族信託の費用目安
  22. 土地1000万円、建物500万円、現金1000万円のときの家族信託の費用目安
  23. 土地2000万円、建物500万円、現金2500万円のときの家族信託の費用目安
  24. 家族信託と財産管理委任契約(任意代理契約)はどう違う?
  25. 家族信託の受託者になれる人の範囲は?
  26. 家族信託の契約書は公正証書で作る?私文書でも大丈夫?
  27. 空き家対策に家族信託を活用する方法はありますか?
  28. 損益通算の禁止規定とは何ですか?
  29. 家族信託と遺言書はどちらが優先しますか?
  30. 年金受給権を家族信託できますか?
  31. 受託者の使い込みが心配です。どうすれば良いでしょうか?
  32. 信託口口座についてペイオフ対策は必要ですか?
  33. 家族信託の手続きは自分でできますか?
  34. 家族信託した不動産を売却するときはどんな登記をしますか?
  35. 信託終了後、受託者でもある帰属権利者に所有権移転登記する際の登録免許税は?
  36. 家族信託の必要書類は?
  37. 家族信託で親の生活費に困らないようにするには
  38. アパートオーナー(賃貸経営者)の認知症対策に家族信託を活用するには
  39. 家族信託で認知症の配偶者に財産を相続させるには
  40. 家族信託をすると税金はどうなる?
  41. 家族信託が必要ないケースは?
  42. 任意後見制度とは?
  43. 家族信託を始めるタイミングは?
  44. 士業などに信託監督人を頼むのは必須ですか?
  45. 家族信託の契約書のサンプルを見せてください
  46. 家族信託の受益権は遺産分割協議や遺言の対象となりますか?

セミナー情報 お知らせメールの登録

司法書士柴崎事務所のセミナー等のご案内をメールでお知らせします 。

メールアドレスをご入力の上、ボタンをクリックしてください。



ご予約・お問い合わせ

司法書士柴崎事務所

埼玉県東松山市元宿二丁目26番地18 2階
電話 0493-31-2010

家族信託の初回面談相談を無料で承っております。
ご相談予約はお電話かフォームよりお願いします。


おすすめ記事
家族信託とは 自宅の信託 賃貸物件の信託 預金の信託 配偶者のための信託 セミナー

動画で解説 家族信託・導入の流れ 費用

無料相談受付中




主な業務対応地域
埼玉県、東松山市、川越市、坂戸市、鶴ヶ島市、ふじみ野市、富士見市、志木市、朝霞市、和光市、新座市、狭山市、所沢市、飯能市、上尾市、桶川市、北本市、鴻巣市、熊谷市、深谷市、行田市、さいたま市、蕨市、比企郡、鳩山町、嵐山町、滑川町、小川町、川島町、吉見町、ときがわ町、秩父市、東京都、板橋区、練馬区、豊島区、群馬県、栃木県など