質問

家族信託の受益権は相続の対象となりますか?

受益権は、遺産分割協議や遺言の対象となるのでしょうか?


回答

家族信託の受益権が相続(遺産分割協議や遺言)の対象になるかは、信託の設計方法によります。

当初の受益者が死亡したときの信託財産の承継方法には次の3つがあります。

  1. 受益権を相続する方法
  2. 受益者が死亡したら受益権が消滅し、次の受益者が新たな受益権を取得する方法(受益者連続信託)
  3. 受益者が死亡したら信託が終了し、残余財産を帰属権利者に指定された者に給付する方法

上記1の場合は受益権が相続の対象となりますので、相続人の遺産分割協議により受益権を取得する相続人を決めることができます。

また、受益権が相続の対象となっているので、受益権を持っていた人が、遺言書で遺贈や相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)をしていた場合は、受益権を取得する人がその遺言で決まることになります。

上記2の場合は、受益者の死亡により受益権が消滅する旨を信託行為(信託契約書など)で定めているので、受益権は相続の対象となりません。

上記3の場合も、受益者が死亡したら信託が終了し、信託行為(信託契約書など)の指定で残余財産を取得する人が決まります。残余財産を取得する人の指定は相続とは別物ですので、遺産分割協議や遺言の対象とはなりません(法定相続人の協議で帰属権利者を決定するとか、帰属権利者の指定を遺言書で変更できるなどの定めを信託契約書にしておくことで、遺産分割協議や特定財産承継遺言に類似した方法をとるケースも見受けられますが)。

受益権を相続する方法

条解信託法488頁には、次のように記載されている。
「受益権も相続財産であるから、相続財産を構成しうる。すなわち、受益者が死亡した場合には、相続が生じるのが原則である。」
「しかし、受益権の相続性が否定される場合も多いと思われる。」「受益者の死亡により受益権が消滅する旨の定めが信託行為にある信託では相続が生じない。」

また、新相続法と信託で解決する相続法務・税務Q&A 212乃至214頁には委託者兼受益者の死後に相続人間で財産分配を決める方法として「受益権を相続財産とする方法」が紹介されているので次に引用する。
「委託者(被相続人)の死亡後も(当初)受益権を消滅させず、相続により共同相続人に承継されるようにするものです。この場合の受益権は、相続財産となりますので、これを共同相続した共同相続人間で遺産分割を行います。」

信託契約書の条項の定め方により受益権を相続財産とし、受益者の相続人の遺産分割協議で財産の取得者を決めることができるのです。

条項の定め方としては、受益者が死亡しても受益権が消滅する旨の条項は置かないようにします。

また、受益者が死亡したら信託が終了するという条項も置きません。

この様にすれば、受益者が死亡しても、信託は終了せず、受益権は相続財産となり、受益者の相続人の遺産分割協議の対象となります。

なお、この様な信託契約をした場合、受益者が別途遺言を作っていた場合は、遺言の書き方によって信託の受益権も影響を受けてしまうでしょう。

「それ以外の財産はAに相続させる」などと遺言書に記載されていれば、信託の受益権もそこに含まれると解釈されると思われます。

受益権を相続させる形に設定した場合は、受益者が別途遺言を作るときに気を付ける必要があります。

受益者が死亡したら受益権が消滅し、次の受益者が新たな受益権を取得する方法

「受益権を有する者が死亡した場合には、その者の有する受益権は消滅し、○○が新たな受益権を取得する。」などと信託条項に記載した場合は、
条解信託法488頁記載の「受益者の死亡により受益権が消滅する旨の定めが信託行為にある信託」に該当するので、相続財産とはなりません。

相続財産ではないので、相続人の遺産分割協議などの対象となりません。

ただ、信託法90条1項は、「委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託」においては、「委託者は、受益者を変更する権利を有する。」と定めております。

委託者(兼受益者)が遺言書を作成する場合、その遺言書で信託法90条1項い定める変更の権利を行使したと解釈されないように、遺言書の条項の記載方法に気を配った方が良いかと思われます。

信託法
第九十条第一項 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託

受益者が死亡したら信託が終了し、残余財産を帰属権利者に指定された者に給付する方法

信託契約書に「受益者が死亡したら信託が終了する」旨と「信託が終了したら残余財産は○○に帰属させる」旨を定めておけば、受益者が死亡した後、残った財産は指定された人が取得することになります。

一代限りの家族信託でよく見られる方法です。



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