質問
私の妻は78才なのですが認知症で判断能力がありません。
私名義の自宅不動産と預貯金は、妻の生活が困らないように妻に相続させたいと思います。
しかし、妻は認知症なので財産を相続しても管理できないと思います。
何か良い方法があるでしょうか?
回答
認知症だと相続手続と財産管理ができない
奥様に財産を相続させたいのであれば「全財産を妻に相続させる」旨の遺言書を作っておくことが考えられますが、奥様が認知症なので相続手続や財産管理ができません。
家族信託を活用して、奥様のために財産管理をする人を用意するという対策が考えられます。
事例
自宅不動産と預貯金をお持ちの父郎さんという人がいたとします。
妻の名前は松子さんです。松子さんは認知症で判断能力がありません。
二人の間には長男・一郎さんと長女・竹子さんがいます。
父郎さん名義の自宅不動産には、父郎さんと松子さんの二人が住んでいます。
父郎さんが松子さんに財産を相続させたいと思って「全財産を妻に相続させる」旨の遺言書を作ったとします。
いざ、父郎さんが亡くなったときに、松子さんは遺産を相続できるでしょうか?
相続が起こっても、松子さんには判断能力がないので、遺言書にもとづいて、不動産の相続登記や預貯金の相続手続ができません。
仮にできたとしても、判断能力がないので、財産を管理していく事ができません。
相続手続や財産の管理をするために松子さんに成年後見人をつけるという話になってしまいます。
家族信託を活用する
家族信託を活用すれば、松子さんのために財産を管理する人を用意してあげられます。
父郎さんが元気なうちに、例えば一郎さんを受託者として信託契約を結びます。
自宅不動産やお金を一郎さんに信託するのです。
そして、信託契約書の中で、信託された財産から利益を受ける人(受益者)を指定しておきます。
父郎さんがご存命中は、父郎さんを受益者に指定しておきます。
父郎さんが亡くなった場合の受益者を妻の松子さんにしておきます。
松子さんも亡くなった場合の受益者は一郎さんと竹子さんの二人にしておきます。例えば、割合は2分の1ずつとします。
信託した後、不動産やお金の管理は受託者となった一郎さんが行います。
父郎さんは受益者として自宅不動産に住み続けられますし、生活費必要なお金も受託者の一郎さんから受け取ったり、払ったりしてもらいます。
父郎さんが亡くなった後は信託契約に基づいて松子さんが受益者となります。
受益者が松子さんになりましたら、信託は続いており、受託者・一郎さんが財産の管理を松子さんのために継続します。
松子さんの生活に必要なお金は、受託者の一郎さんが信託されたお金から支出します。
松子さんも受益者として自宅不動産に住み続けられますし、施設などに移住して自宅不動産が空き家となったら、受託者の一郎さんの判断で売却ができます。
売却代金は受託者の一郎さんが受け取りますが、信託財産として管理して受益者の松子さんのために使います。
この様に家族信託なら松子さんに成年後見人をつけなくても、松子さんのためにお子さんがお金の管理や不動産の売却などをすることができます。
その後、松子さんも亡くなると、受益者は一郎さんと竹子さんの二人となります(割合は2分の1ずつ)。
既に不動産を売却済みであれば、残ったお金を二人で分けて信託を終わらせるという流れが考えられます。
不動産が残っていれば、受託者の一郎さんが売却して、売却代金も含めて一郎さんと竹子さんで分けて、信託を終了させるということが考えられます。
認知症の配偶者のために受託者として財産を管理する人を用意する方法について解説しました。
詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。
家族信託 よくある質問
- 家族信託とは何か?
- 家族信託のメリットは何ですか?
- 成年後見制度では相続税対策ができないのですか?
- 家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?
- 家族信託の費用はいくらぐらいかかりますか?
- 信託銀行の遺言信託をしてますが家族信託はできますか?
- 家族信託の受託者の責任や義務を教えてください
- 受益者連続信託を行う期間に制限はありますか?
- 信託契約を変更することはできますか?
- 受託者が亡くなった場合はどうなりますか?
- 受益者と受託者が同じ人になってしまった場合はどうなりますか?
- 受益者連続信託を行った場合、遺留分はどうなりますか?
- 遺言代用信託で承継者を変更できないようにすることはできますか?
- 信託する際の登記の登録免許税はいくらかかりますか?
- 受益者代理人とはなんですか?
- 遺言書(遺言信託)と家族信託の違いは何ですか?
- 家族信託を組むと不動産取得税はかかりますか?
- 家族信託・民事信託のデメリットは?
- 親の預金を認知症で凍結させない予防法
- 認知症で判断能力がないから成年後見人が必要であると誰が判断するのか?
- 土地1500万円、建物500万円、現金1500万円のときの家族信託の費用目安
- 土地1000万円、建物500万円、現金1000万円のときの家族信託の費用目安
- 土地2000万円、建物500万円、現金2500万円のときの家族信託の費用目安
- 家族信託と財産管理委任契約(任意代理契約)はどう違う?
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