質問
遺言書を作った後に、家族信託を組んだ場合はどちらが優先しますか?
また、家族信託を組んだ後に、遺言書を作った場合はどうでしょうか?
回答
家族信託が優先するとお考えください。
以下に場合分けをして検討します。
遺言書を作った後に家族信託
「全財産をAに相続させる」旨の遺言書を作った後に、家族信託を組成したとします。
家族信託は、不動産を信託して、委託者兼受益者が死亡した場合は信託を終了し、残余財産をBに帰属させる内容だったとします。
上記の信託された不動産を承継するのはAでしょうか?それともBでしょうか?
結論はBとなります。
民法1023条2項で、遺言と抵触された生前処分がされた場合には、抵触する部分について遺言を撤回したものとみなすと定められております。
第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
不動産について家族信託をしたことにより生前処分をしてますから、その部分について前に作った遺言書は撤回されたものとみなされます。
したがって、信託された不動産についてはBが承継します。
家族信託を組んだ後に遺言書
不動産を信託して、委託者兼受益者が死亡した場合は信託を終了し、残余財産をBに帰属させる内容の家族信託を組んだとします。
その後、「全財産をAに相続させる」旨の遺言書を作ったとします。
信託した不動産を承継するのはAでしょうか?Bでしょうか?
信託契約書において委託者や受益者が単独で帰属権利者を変更できる旨の定めがされていない限り、信託された不動産の承継者はBであるとお考えください。
委託者は不動産を信託したことによって、不動産は信託財産となり、委託者の固有財産ではなくなります。
その後に委託者が遺言書を作っても、信託された不動産については効力が及びません。
しかし、信託契約書において、委託者が自由に帰属権利者を変更できる旨の条項が定められている場合は、遺言書において帰属権利者の変更を指示したと解釈される余地が残ります。
また、信託法90条では、委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等においては、委託者は、受益者を変更する権利を有すると定められいます(ただし、信託契約書において別段の定めは可能です)。
第90条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
1 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
2 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託
遺言書によって信託法90条の権利を行使したと解釈される余地が残ります。
したがって、家族信託を組んだ後に遺言書を作る場合は、遺言書は帰属権利者や後継受益者の変更を指示するものではないことを明示しておいた方が、後々、解釈に疑義が生じることを防げるでしょう。
家族信託を組成した後に遺言書を作る場合は、家族信託の組成に携わった専門家に遺言書の件も相談したほうが安全かと思われます。
詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。
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