質問
信託銀行で勧められて遺言信託というのをしています。
遺言信託をしていても家族信託をすることはできますか?
回答
信託銀行の「遺言信託」というのは、遺言書の作成を信託銀行が手伝って、遺言書を保管し、相続が発生したら遺言執行を信託銀行が行うというサービスです。
通常の遺言書を作成したということになります。
それでは、一度作った遺言書を撤回することはできるでしょうか。
民法に次のように定められています。
(遺言の撤回)
第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
遺言は、いつでも遺言の方式によって撤回できるし、後の遺言が前の遺言に抵触する場合は抵触する部分は撤回したものとされます。
また、遺言後の生前処分などが前の遺言に抵触する場合も、抵触する部分の遺言は撤回したものとみなされます。
従いまして、信託銀行の遺言信託サービスで遺言書を作っていたとしても、その後に、家族信託で信託財産にした部分は遺言が撤回されたものとみなされます。
家族信託の契約が民法1023条2項にいう「遺言後の生前処分その他の法律行為」ということになります。
遺言書を作った後に、家族信託を組んだら、それに組み入れた財産については家族信託が優先するということになります。
家族信託の契約書に信託終了時の財産の帰属権利者が定めてあれば、最終的には信託した財産はその人に行きます。
遺言との関係においては、後から行った家族信託が優先しますが、信託銀行との関係は問題ないでしょうか?
信託銀行の「遺言信託」サービスは遺言執行時に多額の遺言執行報酬が発生する契約になっていることが多いです。
なるべく解約されたくないので、信託銀行によっては遺言信託を解約するのに精算費を請求する契約になっていることがあります。
解約にお金がかからない信託銀行もあるようですので、遺言信託を頼んだ信託銀行に確認してください。
なお、遺言信託サービスは解約せずに、財産の一部だけを家族信託に組み込めば、家族信託に組み込んだ財産については遺言執行の必要がないわけですから、解約の費用も発生しないし、信託銀行の遺言執行報酬も減らせるのではないでしょうか(信託銀行の「遺言信託」サービスの遺言執行報酬は最低額が定められていますので、これを下回っている場合は遺言執行報酬は減らないと思われます。)。
いずれにしても、具体的にどの様な契約になっているのかはご契約している信託銀行にご確認ください。
遺言執行者というのは、財産目録を作ったり、預貯金の相続手続をすることが主な業務になりますが、相続人間でもめてなければ相続人のうちの一人が遺言執行者となっても十分に遺言執行を遂行できるものと思われます。
事実、遺言執行者を相続人のうちの一人とする遺言書は数多く作られています。
信託銀行に多額の遺言執行報酬を払ってまで頼むべきかは、解約にかかるコストを踏まえた上で一度検討したほうが良いのではないでしょうか。
話がそれましたが、最後にまとめますと、信託銀行の「遺言信託」サービスで遺言書を作っていても、家族信託は組むことができます。
遺言書を既に作っている方も、遺言書だけでは認知症対策にはなりませんから、家族信託についてもご検討ください。
詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。
家族信託 よくある質問
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