はじめに

遺言書を使って相続手続をする場合、遺言執行者が指定されていると預貯金の相続手続がスムーズにいく傾向があります。

そのため、遺言書を作るときは、遺言執行者を指定しておくと良いのですが、遺言執行者に家族を指定することもできます。

遺言執行者は相続開始後に色々やることがあります。

遺言書の内容を相続人に通知したり、相続財産の目録を作成し相続人に交付したりします。

そして、具体的な遺言内容の実現-預金の相続手続、不動産の相続登記、株の相続手続などをします。

以上の手続が終わった場合は、相続人に任務が完了した旨経過と結果の報告をすることになります。

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遺言執行者をつける理由

遺言書を使って預貯金の相続手続をする場合でも、遺言執行者がいないと相続人全員実印の押印印鑑証明書を要求する金融機関があると聞きます。

遺言執行者がいれば、遺言執行者だけの署名押印(実印)と印鑑証明書で預貯金の払戻しができる可能性が高まります。

相続財産に預貯金がある場合は、遺言書で遺言執行者を指定しておいた方がよいでしょう。


不動産の相続登記については、遺言書に「(相続人に)相続させる」旨が記載されていれば、不動産を相続した相続人の単独申請で登記ができます。

この場合は、遺言執行者がいなくても困りません。

ただ、不動産を「遺贈する」旨の遺言書だった場合は、不動産の遺贈を受けた人(受遺者)と遺言者の相続人全員とで登記申請をします。

遺言者の相続人全員の協力がないと登記ができないという話になりますが、遺言執行者がいれば遺贈を受けた人(受遺者)と遺言執行者の申請で登記ができます。

不動産を「遺贈する」という文言を遺言書で使う場合(相続人以外に渡すには遺贈することになります)、遺言執行者を指定しておいた方がよいでしょう。

遺言執行者に家族を指定できる

遺言執行者には家族、相続人、受遺者を指定しておくこともできます(ただし、未成年者破産者は遺言執行者になれません)。

遺言執行者に家族を指定することにより、遺言執行者の報酬を節約することができます。

遺言執行者を指定する場合は、遺言書に次のように記載します。

遺言書

  1. 遺言者は、遺言者の有する全財産を、遺言者の長男鈴本一郎(昭和〇〇年〇月〇日生)に相続させる。
  2. 遺言者は、本遺言の遺言執行者として前記鈴本一郎を指定する

令和〇年〇月〇日

埼玉県東松山市元宿2丁目〇番地〇
遺言者 鈴本父郎 ㊞

銀行などに遺言執行者を頼むと高い

銀行などの遺言書作成サポートサービス(一般的に「遺言信託」というサービス名が使われています)を利用すると、遺言執行者に銀行を指定するのがセットのケースが多いと思います。

主要な銀行の遺言執行者の報酬をパンフレットやホームページで見ると、最低報酬額が100万~150万円ぐらいのケースがおおいようです(遺言書作成時に高額な料金を払えば、遺言執行者としての報酬をディスカウントする報酬体系もあるようです)。

最低報酬額なので、相続財産が多ければ、遺言執行者の報酬も上がる設定です。

士業に遺言執行者を指定するのは?

弁護士や司法書士なども遺言執行者をうけたまわるケースがあるかもしれません。

個人の士業を遺言執行者に指定する場合、相続が発生したときに、その士業が業務を行える状態にあるか分からないという問題があります。

遺言者より先に、士業が先に亡くなる可能性も考慮する必要があります。

ただ、遺言執行者がないときは、利害関係人の請求書によって、家庭裁判所が遺言執行者を選任することもできるので、万が一のときは、この方法が使えます。

民法
(遺言執行者の選任)
第千十条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

親族を遺言執行者に指定しても良いケース

遺言執行者には義務と責任がありますから、これを遺言執行者に指定される家族が理解し、遺言執行の内容もシンプルな場合は、遺言執行者を家族がやっても良いでしょう。

相続発生後の遺言執行者の義務や責任については後述します。

なお、相続人同士でもめている場合は、遺言執行者がやるべきことをやらないと、他の相続人から損害賠償請求などの責任追及をされるかもしれないので、注意しましょう。

また、遺言執行の内容がシンプルな場合とはどの様なケースでしょうか?

遺言執行の内容として、不動産の相続登記や預貯金の相続手続がメインである場合がよくあるケースでしょう。

遺言による認知、廃除、未成年後見人の指定、信託、一般財団法人設立などをする複雑な遺言書である場合は、専門職に遺言執行者を頼んだ方がよいかもしれません。

相続開始後に遺言執行者がやること

遺言執行者は相続開始後に次の様なことを行います。

  • 遺言の内容を相続人に通知する
  • 相続財産の目録を作成し、相続人に交付する
  • 具体的な遺言内容の実現(預金相続、相続登記、株の相続)をする
  • 相続人に、任務が完了した旨、経過と結果の報告をする

しっかりやらないと他の相続人から損害賠償請求を受ける可能性があります。

遺言の内容を相続人に通知

相続開始後、遺言執行者は、任務を開始したときは、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。

民法
第1007条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

遺言書をコピーして相続人に配れば良いでしょう。

郵送する場合の手紙の文例を次に掲載します。

父・鈴本父郎が令和○年○月○日永眠いたしました。
父・鈴本父郎は、令和○年○月○日付遺言公正証書(さいたま地方法務局所属公証人○○作成令和○年第○○号)により私を遺言執行者に指定していたため、私が遺言執行者に就職いたします。
つきましては、民法の規定で相続人の皆様に遺言の内容をお知らせすることになっているので、上記遺言公正証書の写しを同封いたします。

相続財産の目録を作成

遺言執行者は、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません。

民法
第1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

財産目録は次の書式を参考作成してください。

財産目録

令和○年○月○日
遺言執行者 鈴本一郎

被相続人・鈴本父郎の相続財産は次の通りです。

  1. 不動産
    (省略)
  2. 預貯金
    ○○銀行 東松山支店 普通 口座番号○○○ (相続開始時の残高○○円)
  3. 債務
    ○○病院の入院費・治療費の未払い分 金○○円

具体的な遺言内容の実現

遺言書のコピーや財産目録を交付したら、具体的な執行行為をします。

預金の相続手続については、金融機関に連絡して、どの様にすれば良いか聞きましょう(司法書士などに代行を依頼することもできます)。

不動産の相続登記については、必要に応じて司法書士に相談しましょう。

なお、2019年7月1日より前に作成された「(相続人に不動産を)相続させる」旨の遺言書の場合、遺言執行者は登記の申請人になれません。
この場合、相続登記は不動産を取得した相続人が単独で行うことになります。

株の相続手続については、証券会社などに連絡をして、どの様に進めるのか確認しましょう。

任務が完了した旨、経過と結果の報告

遺言執行者の任務が終了した場合は、終了した旨と、経過と結果を相続人などに報告します。

民法
第645条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。(民法1012条3項により準用)

第655条 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。(民法1020条により準用)

私は、父・鈴本父郎の令和○年○月○日付遺言公正証書に基づき、遺言執行者として任務を行ってきましたが、遺言執行事務が令和○年○月○日に終了しましたので、本書をもってお知らせいたします。
なお、遺言執行の経過と結果は以下のとおりです。

  1. 不動産
    令和○年○月○日、下記不動産を○○様に所有権移転登記申請しました。
    令和○年○月○日、下記不動産の登記識別情報を○○様に交付しました。
    (不動産の表示 省略)
  2. 預貯金
    令和○年○月○日、○○銀行の預金を解約し、令和○年○月○日付遺言公正証書第○条に従って、各相続人の指定口座に送金しました。

まとめ

この記事では、遺言執行者に家族を指定できることを解説しました。

ただ、遺言執行者には義務と責任がありますので、遺言執行者になった場合は注意しましょう。

遺言執行者は、相続開始後に遺言書のコピーや財産目録を相続人に交付したり、任務完了後は経過や結果などの報告をしたりしなければなりません。

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