受託者の義務と責任

受託者には様々な義務や責任があります。

家族信託の受託者になろうという方は、この義務や責任を把握しておきましょう。

受託者の無限責任

受託者は、信託に関する取引で生じた債務について信託財産で支払ができない場合は、受託者自身の固有財産で支払わなければなりません。

例えば、信託された不動産の修繕を受託者が業者に頼んだとします。その費用を、信託された財産で払えないのであれば、受託者が個人として払わなければなりません。

また、受託者は信託財産の形式的な所有者ですから、所有者責任を負います。
例えば、工作物責任というのがありますが、信託された建物の瓦が落ちて、誰かが怪我をしたとします。
その損害賠償請求をされたときに、信託財産で払えないのであれば、受託者の個人財産で払わなくてはなりません。

善管注意義務(信託法29)

受託者は、「善良な管理者の注意」をもって信託事務を処理しなければなりません。
「善良な管理者の注意」とは、その職業や地位にある人として通常要求される程度の注意です。
信託にあたっては、信託の事務処理を担う同じ社会的地位にある者が負担するのと同等の注意義務が課せられています。

なかなか分かりづらいかもしれませんが、受託者は他の人の財産を扱っているので、自分の財産を扱うときよりも一層の注意を払って事務処理を行う義務があるとイメージしてください。

忠実義務(信託法30)

受託者は、受益者のために忠実に信託事務を行わなければなりません。
受託者はもっぱら受益者の利益のためにのみ行動すべきという原則です。

利益相反行為の制限(信託法31)

受託者は下記のような利益相反行為をすることができません。
ただし、あらかじめ信託契約書で利益相反行為を許容している場合や、受託者が利益相反行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たときなどは例外的に認められます。

自己取引

信託財産を受託者個人の固有財産とすること、又は、受託者個人の固有財産を信託財産にすること。例えば、信託財産を受託者個人が購入したり、受託者個人の財産を信託されたお金で購入したりすることなどです。

信託財産間取引

信託財産間の取引。例えば、受託者が父と母それぞれから信託を受けている場合に、父の信託財産の一部を母の信託財産に移してしまうことなどです。

信託事務処理にかかる行為について第三者のための代理

信託財産と第三者との取引において受託者個人が第三者の代理人となって行うものです。例えば、受託者が他の会社の代表取締役として、信託財産である不動産を購入する取引においては、受託者が売主と買主の両方の立場になってしまいます。

間接取引

受託者個人が負う債務について信託不動産に抵当権を設定するような取引です。
受託者の配偶者や子が利益を受けるような取引も、受託者が間接的に利益を受けるので禁止されています。

公平義務(信託法33)

受益者が二人以上ある信託では、受託者は受益者のために公平にその職務を行わなければなりません。

分別管理義務(信託法34)

受託者は、信託財産と受託者個人の固有財産、他に受託している信託の財産とを分別して管理しなくてはなりません。

まず、不動産など登記又は登録できる財産については、登記又は登録をします。したがって、不動産を信託したら、信託の登記をするのです。この登記の義務は、信託契約書で免除することはできません。

次に、金銭を除く動産については、信託財産、固有財産、他の信託に属する信託財産と外形上区別できる状態で保管します。
動産を信託することはあまりないかもしれませんが、動産にシールを貼っておくなどの対応が考えられます。

最後に、金銭や上記以外の財産については、「その計算を明らかにする方法」と規定されています。受託者が、通帳を記帳したり、現金出納帳をつけたりして管理することになるでしょう。

信託事務の処理の委託における第三者の選任及び監督(信託法35)

受託者が信託事務の処理を第三者に委託する場合は、適切な者に委託しなければなりません。また、適切な監督も行う義務があります。

報告義務(信託法36)

委託者又は受益者から求められたときは、受託者は信託事務の処理状況、信託財産の状況について報告しなければなりません。

帳簿等の作成等、報告・保存の義務(信託法37)

受託者は、信託財産に係る帳簿その他の書類を作成しなければなりません。

自宅不動産を信託したような場合は、通帳を記帳したり、現金出納帳などをつけたりすれば良いと思われます。

賃貸物件を信託したような場合は、信託をする前も複式簿記で仕訳帳、総勘定元帳、その他の帳簿などをつけて管理していたのであれば、受託者も同様の帳簿をつけるべきでしょう。
賃貸物件の信託で、信託する前に簡易簿記だった場合は、現金出納帳、預金出納帳、収入帳、経費帳、固定資産台帳を受託者もつけましょう。
いずれの帳簿作成においても領収書やレシートなどは保存するようにしましょう。

なお、受託者は上記の帳簿、書類、信託財産の処分に関する契約書、信託事務の処理に関する書類などを10年間保存しなければなりません。

また、受託者は、毎年1回、一定の時期に貸借対照表、損益計算書その他の書類を作成して、その内容について受益者に報告しなければなりません。
どれぐらいの書類が要求されるかですが、賃貸物件などが対象財産で、資産の運用が目的の信託であれば、貸借対照表、損益計算書を作成するべきかと思われます。
ただ、自宅不動産の信託の場合は、年に1回、財産目録を作成し、通帳や現金出納帳を受益者に見せて報告するぐらいでよろしいのではないでしょうか。

上記の貸借対照表、損益計算書、財産目録などは、信託が終了し、清算手続が終わるまで保存しておきましょう。

損失てん補責任(信託法40)

受益者は、受託者がその任務を怠ったことによって信託財産に損失が生じた場合には当該損失のてん補を、信託財産に変更が生じた場合には原状の回復を受託者に請求することができます。

次の記事:信託口口座を作成する金融機関を検討する

家族信託 導入の流れ

導入の流れ 解説PDFファイル

  1. 何のために家族信託をする?
  2. 役割を担う人を考える
  3. 相続発生時の承継者を検討する
  4. 信託する財産を検討する
  5. 受託者の責任と義務を知る
  6. 信託口口座を作成する金融機関を検討する
  7. 用意する書類は何か?
  8. 信託契約公正証書を作成する
  9. 組成後に受託者が行うこと
  10. 相続が起こったら
  11. 信託を終了・変更したいとき
  12. 不動産を売るとき



導入の流れを動画で解説

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組成後に受託者が行うことを解説

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