認知症の親の不動産を売るには

認知症の親御さんの自宅不動産を売却して、施設への入所費用に充てたいとした場合、どのような手続をすれば良いのでしょうか?

認知症になって判断能力がなくなってしまうと、親御さん自身が売主となって、不動産の売買契約を結ぶことはできません。

不動産を売る際に、司法書士が売主さんの本人確認や意思確認をしますが、認知症のため意思確認ができないと司法書士は売買の登記を受託できません。


この様なときに自宅不動産を売ろうと思ったら、親御さんに成年後見人をつけることになります。

成年後見の申立を家庭裁判所にすることになりますが、まず、医師の診断書を取ることから始めます。

成年後見用の医師の診断書は、各都道府県の裁判所によって雛形が違うと思いますが、さいたま家庭裁判所の診断書はこちらを参照ください。

この診断書を医師に書いてもらって、「判断能力判定についての意見」が「自己の財産を管理・処分することができない。(後見相当)」になっているようでしたら、後見を申し立てることになります。

「判断能力判定についての意見」が「自己の財産を管理・処分するには常に援助が必要である。(保佐相当)」であった場合は、不動産の売却にあたっては保佐人の同意が必要となりますので、保佐開始の申立をします。

後見や保佐の申立をする管轄裁判所は、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所です(管轄裁判所を調べたい方はこちら)。


後見の申立をしてから、実際に後見人が選任されるまでは1~2ヶ月ぐらいかかります。

なお、後見人に誰が選ばれるかですが、親族を後見人候補者にすることもできます。

しかし、裁判所はいろいろな事情を考慮して、専門職(司法書士や弁護士)を後見人に選ぶこともあります。

また、親族を後見人にして専門職を後見監督人につける場合もあります。

専門職が後見人や後見監督人になった場合は、その報酬も今後発生していくことになります。


さて、家庭裁判所によって後見人が選任されたら、後見人は居住用不動産の処分許可を家庭裁判所に申請します。

ご本人(成年被後見人)が居住用として使用していたり、過去に使用していた不動産を売却するには家庭裁判所の許可が必要となります。

そして、この許可を得るには、不動産を売却する合理的な理由がないといけません。

売却代金を施設の入所費用に充てるなど、本人のために必要なことでないといけません。

相続税対策や資産運用のためだと裁判所は認めてくれないと思われます。


不動産の処分について裁判所の許可が得られたら、後見人がご本人(成年被後見人)に代わって不動産の売却をします。

売買決済時に売主さんが持って行く書類としては、登記済証(または登記識別情報)、成年後見の登記事項証明書、成年後見人の印鑑証明書、実印などになります(詳しくは決済を担当する司法書士にご確認ください)。


元気なうちに家族信託

以上は、認知症になってしまってから自宅不動産を売却する手続について述べました。

なお、認知症になる前に家族信託を組んでおくことによって、認知症になった後も成年後見制度を使わずに自宅不動産を売却する方法もあります。

詳しくはこちらをご覧ください。