質問

家族信託を組んだときの税金について教えてください。


回答

家族信託を組んだときは?

家族信託を組んだ際に、委託者と受益者とが違う人だと、相続税法第9条の2 第1項により贈与とみなされ、贈与税が発生してしまいます。

相続税法 第9条の2 1項
信託(退職年金の支給を目的とする信託その他の信託で政令で定めるものを除く。以下同じ。)の効力が生じた場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の受益者等(受益者としての権利を現に有する者及び特定委託者をいう。以下この節において同じ。)となる者があるときは、当該信託の効力が生じた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与(当該委託者の死亡に基因して当該信託の効力が生じた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

相続税法第9条の2 第1項で贈与とみなされないためには、信託を組んだときに委託者と受益者が同じ人になるようにします。

親御さんが委託者となって信託をするときは、親御さん自身を受益者にしておけば、贈与税が課税されません。



なお、信託の効力が生じた場合、委託者と受益者が別人であるときは、翌月末日までに受託者が税務署に、信託に関する受益者別(委託者別)調書その合計表を提出します。
委託者と受益者が同じ人である場合は、上記調書の提出は必要ありません。


受益者の相続が発生したときは?

受益者が亡くなって、新たな受益者が受益権を取得した場合は、相続税法第9条の2 第2項によって、受益権は相続税の対象財産となります。

相続税法 第9条の2 2項
受益者等の存する信託について、適正な対価を負担せずに新たに当該信託の受益者等が存するに至つた場合(第四項の規定の適用がある場合を除く。)には、当該受益者等が存するに至つた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の受益者等であつた者から贈与(当該受益者等であつた者の死亡に基因して受益者等が存するに至つた場合には、遺贈)により取得したものとみなす


受益者が亡くなったら信託を終了する設計の場合、信託の終了によって残余財産(残った財産)を取得した人(帰属権利者)は、遺贈によって残余財産を取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。
これは、相続税法第9条の2 第4項に定められています。

相続税法 第9条の2 4項
受益者等の存する信託が終了した場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となる者があるときは、当該給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた時において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき、又は帰属すべき者となつた者は、当該信託の残余財産(当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であつた場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除く。)を当該信託の受益者等から贈与(当該受益者等の死亡に基因して当該信託が終了した場合には、遺贈)により取得したものとみなす


なお、受益者の変更があったり、信託が終了した場合は、翌月末日までに受託者が税務署に、信託に関する受益者別(委託者別)調書その合計表を提出します。


受益者の生存中に承継してしまうと?

受益者の生存中に、受益権を譲渡した場合、適正な対価の支払がないときは、相続税法第9条の2 第2項により贈与されたものとみなされ贈与税の課税対象となります。

受益者の生存中に、信託を終了し、受益者以外の人が残余財産を取得した場合、適正な対価の支払がないときは、相続税法第9条の2 第4項により贈与されたものとみなされ贈与税の課税対象となります。

信託は合意解除や信託法の規定による強制終了も想定されますので、受益者の生存中に信託が終了した場合は、贈与税が課税されないように残余財産を受益者自身が取得する設計にしておいた方が良いでしょう。

なお、信託契約書の雛形の載っている書籍を読むときは、受益者の生存中に信託が終了となった場合、贈与税が課税されない設計になっているか気をつけてみましょう。
(贈与税が課税されてしまう雛形も見受けられます。)


受託者が定期的に税務署に提出する書類

年間の信託財産の収益の額の合計額が3万円(計算期間が1年未満の場合は1万5千円)を超えるときは、翌年1月31日までに受託者が税務署に信託の計算書その合計表を提出します。

提出期限が確定申告より早いので注意してください。


確定申告は誰がする?

信託財産からの収益の確定申告は受益者が行います。

所得税法 第13条1項 
信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。ただし、集団投資信託、退職年金等信託又は法人課税信託の信託財産に属する資産及び負債並びに当該信託財産に帰せられる収益及び費用については、この限りでない。


損益通算の禁止規定とは

受益者が個人である場合、信託財産から生じる不動産所得の損失(赤字)はなかったものとみなされます(租税特別措置法41の4の2)。したがって、この損失(赤字)を、信託をしていない不動産に係る不動産所得の黒字や他の所得から差し引くことができません。

また、信託した不動産から生じた損失を翌年に繰り越すこともできません。

この損益通算の禁止規定があるので、ケースによっては信託しなかったときよりも所得税を多く払うことがあるかもしれません。

賃貸物件などを信託する場合、将来、大規模修繕などで赤字が予想される年があるときは、信託するタイミングをよく考える必要があります。

租税特別措置法 第41条の4の2 
特定組合員(組合契約を締結している組合員(これに類する者で政令で定めるものを含む。以下この項において同じ。)のうち、組合事業に係る重要な財産の処分若しくは譲受け又は組合事業に係る多額の借財に関する業務の執行の決定に関与し、かつ、当該業務のうち契約を締結するための交渉その他の重要な部分を自ら執行する組合員以外のものをいう。)又は特定受益者(信託の所得税法第十三条第一項に規定する受益者(同条第二項の規定により同条第一項に規定する受益者とみなされる者を含む。)をいう。)に該当する個人が、平成十八年以後の各年において、組合事業又は信託から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上当該組合事業又は信託による不動産所得の損失の金額として政令で定める金額があるときは、当該損失の金額に相当する金額は、同法第二十六条第二項及び第六十九条第一項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかつたものとみなす。



家族信託をした場合の税金について解説しました。

詳しくは拙著「Q&A 「家族信託」の活用」もご参照ください。


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