法定相続人の順位と法定相続分からの続きです。

遺言書がないときの相続手続の流れについて解説します。

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遺言書作成


目次


相続手続の流れ(遺言がないとき)

相続手続の流れ(遺言がないとき)

遺言書がない場合に、相続により不動産の名義を変えたり、預貯金の相続手続をするには概ね次のようになります。

  • 戸籍を集めて相続人の確定
  • 財産の調査
  • 遺産の分け方を決める
  • 遺産分割協議書に署名捺印
  • 相続登記、預貯金・株式の相続手続

それでは、個々の内容を詳しく見ていきましょう。


戸籍を集める

戸籍を集める

まず、戸籍を集めて、亡くなった人の相続人が誰であるかを確定します。

戸籍と言うのは、結婚、転籍、戸籍の改製によって新しい戸籍が作成されます。

一人の人でも、生まれてから亡くなるまでの間に、複数の戸籍が作成されていて、その数は人によって異なります。

新しい戸籍が作成されると、前の戸籍の記載内容が新しい方に載らないことがあります。

例えば、子どもが結婚して戸籍から抜けた後に、違う役所に転籍すると、新しい戸籍には子どもの情報が記載されません。

このため、亡くなった人の生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本(除籍、改製原戸籍)が全てないと、亡くなった人の相続人が誰なのか確定できないのです。


集める戸籍【共通】

集める戸籍【共通】

遺言書が無いケースで相続手続をする際に、必ず集めなければならない書類を解説します。

まず、亡くなった人(被相続人)の出生時から亡くなるまでの一連の戸籍謄本、改製原戸籍、除籍謄本などが必要になります。

本籍地がずっと同じ役所であれば、役所の戸籍係に行って、「相続で使うから、亡くなった人の生れてから死亡するまでの戸籍謄本を全部欲しい」と言いましょう(司法書士に依頼すれば代行で取得することもできます)。

役所の職員が、その役所にある戸籍謄本を全部出してきてくれます。

ただ、被相続人が他の役所から転籍してきている場合は、元の役所で申請しないと転籍前の戸籍謄本は出てきません。

どこから転籍してきたかを戸籍謄本の記載を見て確認して、転籍前の役所に戸籍謄本を請求することになります。


上記の戸籍謄本の他、被相続人の住民票の除票も必要となります。

住民票の除票は、本籍地の記載入りのものを取った方が良いでしょう(役所の申請書に本籍地を表示するチェック欄があると思います)。


また、相続人の書類としては、戸籍謄本、住民票(本籍地入りのもの)、印鑑証明書が必要です。

印鑑証明書は相続登記に使う場合、有効期限はありません。

しかし、預貯金の相続手続につかう場合、金融機関ごとに独自の有効期限を定めているところが多いです。

例えば、3ヵ月以内とか6ヶ月以内とかいう様に。


また、被相続人の子が被相続人の死亡以前に亡くなっている場合は、その者の子(被相続人の孫)が代襲相続人になると説明しました。

すると、被相続人の子の子が誰であるかということも調べなければなりません。

つまり、代襲相続が発生している場合は、被相続人の子の戸籍謄本も出生から死亡時までのものを集めなければならなくなります。


集める戸籍【直系尊属が相続人】

集める戸籍【直系尊属が相続人】

被相続人に直系卑属(子、孫など)が全くいないと、被相続人の直系尊属(父・母など)が相続人になります。

死亡している直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る)がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍、改製戸籍)が必要となります。

上記の図の左の波平の父が存命で母が死亡している例で言うと、波平の母の死亡の記載のある戸籍謄本が必要になります。

相続人が父だけで、母は死亡しているということを証明するためです。


また、上記の図の右で、波平の父母は死亡していて、祖父母も母方の祖父だけ生きている例で言うと、波平の父母、父方の祖父母、母方の祖母の死亡の旨の記載がある戸籍謄本が必要となります。

父母が死亡していて、初めて祖父母が相続人に入ってきますし、さらに祖父母で死亡している人を証明しないと、直系尊属の相続人が誰だか確定できないからです。

相続人に直系尊属が入ってくると、集める戸籍が多くなります。


集める戸籍【配偶者のみが相続人、又は、兄弟姉妹が相続人】

集める戸籍【配偶者のみが相続人、又は、兄弟姉妹が相続人】

配偶者のみが相続人であるケースと、兄弟姉妹が相続人に入ってくるケースでは更に多くの戸籍謄本が必要となります。

まず、被相続人の兄弟姉妹が誰かと言うこと、または、兄弟姉妹がいないということを証明するために、被相続人の父母の出生時から死亡時までの一連の戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本を取る必要があります。

そして、兄弟姉妹まで相続人が回ってくるということは、直系尊属が全員死亡しているはずですから、それを証明するために被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本などを取得します。

父母が死亡していた場合は、祖父母が相続人になりますから、生年月日の記載から概ね110才以上になっていないケースでは、祖父母の死亡の記載のある戸籍も要求されるでしょう。


被相続人の兄弟姉妹の中に、被相続人の死亡以前に亡くなっている人がいる場合は、その者の子(被相続人の甥姪)が代襲相続人になります。

従って、死亡している兄弟姉妹の子が誰かと言うことを証明するために、死亡した兄弟姉妹の出生から死亡時までの一連の戸籍謄本を取得しなくてはなりません。

また、代襲相続人である甥姪で、被相続人の死亡以前に亡くなっている人がいる場合は、その甥または姪の死亡の記載のある戸籍謄本を取得します。


兄弟姉妹まで相続人がいってしまうと、非常に多くの戸籍謄本を集めなくてはなりません。

現在の戸籍謄本は1通450円の役所が多いのですが、除籍とか改製原戸籍は1通750円の役所が多いです。

場合によっては、何十通も除籍や改製原戸籍を集めなくてはならなくなるので、役所に払う実費だけでも何万円もかかることもあります。


財産を調査

財産を調査

戸籍を収集して相続人を確定したら、今度は、相続財産の調査もします。

被相続人の不動産の調べ方ですが、役所から送られてくる納税通知書や権利証(登記識別情報)などに不動産の記載がされています。

なお、役所の税務課で名寄帳を取ると、その市町村にある被相続人名義の不動産の一覧が出てきます。

納税通知書では非課税の不動産が出てこないケースがありますので、なるべく名寄帳を取得したほうが良いでしょう(名寄帳の取得も司法書士によっては代行してくれます)。


預貯金の調査については、通帳やカードなどを探します。

相続人として銀行に口座があるか照会をかけることもできますが、銀行ごとに行う必要があります。

被相続人の取引のあったと思われる全銀行に、口座があるか照会をかけるのも大変ですので、なるべくなら生前に口座のある銀行の一覧を作っておいた方が良いでしょう。

そして、銀行の相続手続というのは1行につき1~2時間待たされたり、何度も足を運ばなくてはならないこともあるため、残高が少ない銀行や遠方の銀行は生前に解約してしまった方が良いでしょう。


株式などの有価証券を調べるには、証券会社から送られてきた手紙などを調べます。

その様な手紙があったら証券会社に、被相続人名義の取引があったか問い合わせます。


生命保険は保険証券などを探します。


借金は個人信用情報機関で照会をかけると、業者が登録していれが借入先の一覧が出てきます(個人信用情報機関の記事を参照)。

個人信用情報機関は、日本信用情報機構、CIC、全国銀行個人情報センターなどがあり、業者によって登録先が異なります。

なお、個人信用情報機関には、個人からの借入は登録されませんし、保証人になった場合も登録されるケースと登録されないケースがある様です。

保証債務などは相続が開始して、相続放棄できる期間を過ぎてから請求されることもあります。

生前に、借入している金額や保証人になっていることなどは、家族に伝えておくべきでしょう。


財産の分け方を決める

財産の分け方を決める

戸籍の収集で相続人を確定し、財産の調査が完了したら、相続人同士で財産の分け方を決めましょう。

遺産分割の方法としては、現物分割、代償分割、換価分割があります。

現物分割は、そのままの形で遺産を分ける方法です。

土地A,B,C,Dがあったとしたら、土地Aはフネ、土地Bはサザエ、土地Cはカツオ、土地Dはワカメなどという様に分ける方法です。

また、一つの土地を共有で分けるのも現物分割です。

一つの土地をフネ、サザエ、カツオ、ワカメで共有で相続するやり方ですが、原則として不動産を共有で持つことは避けた方が良いです。

不動産を共有で持つと、不動産を売るのに共有者全員の協力が必要となります。

誰か一人が反対すると、売るのは難しいです。

さらに、相続が発生して共有者が増えてしまうと、意思統一をしようと思っても収拾がつかなくなってしまいます。

なるべくなら、不動産は共有にしないようにしましょう。


次は、代償分割について説明します。

これは、一人の相続人がある相続財産を取得する代わりに、他の相続人にお金を払う方式です。

例えば、遺産として土地があって、これをフネが相続するとします。

フネが土地を相続する代償として、サザエ、カツオ、ワカメに〇〇万円ずつ払うというやり方です。


最後に換価分割について説明します。

これは、遺産を売って、その代金を相続人同士で分けるという方式です。

例えば、土地を相続人の共有名義で相続登記して、その後、土地を売却し、売却代金を共有持分の割合で分けます。


借金も相続する

借金も相続する

遺産の分け方は、相続人全員が合意すれば、どう分けても良いので、例えば全遺産を配偶者が相続して、子ども達は何ももらわないという分け方もできます。

ただ、遺産分割協議で何も財産をもらわないとした場合でも、被相続人の負債は相続してしまいます。

被相続人の債権者は、相続人たちに法定相続分の割合で請求することができるのです。

借金などを相続したくない場合は、家庭裁判所に相続放棄を申述しなくてはなりません。

相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知ってから3ヵ月以内にする必要があります。


遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書2

相続人同士で遺産の分け方が決まったら、それを遺産分割協議書にします。

例えば、不動産は〇〇が相続するとか、預金は〇〇が相続するとかいう様に記載していきます。

そして、相続人全員の実印を押印します。

なるべく記名ではなく署名にしておいた方が良いでしょう。


各相続手続

各相続手続

遺産分割協議書に署名捺印したら、それらを使って各財産の相続手続をします。

まず、不動産の場合は、相続登記をして名義を変えます。

これは法務局に相続登記の申請書を提出して行いますが、一般的には司法書士に依頼する人が多いでしょう。


預貯金、株式、国債、投資信託なども、それぞれの金融機関で手続をします。

金融機関によっては独自の書類に相続人全員の実印を要求するところもあります。

また、銀行での相続手続は1~2時間ぐらい待たされることが多いです。

銀行によっては、一度、戸籍などの書類を本部で見るので、後日また来てくださいと言われることもあります。

この様に、金融機関での相続手続は面倒なので、生前に不要な口座は整理しておいた方が良いでしょう。


なお、銀行預金などの相続手続も代行する司法書士もおりますので、ご自身で手続するのが手間な場合は相談してみると良いでしょう。


遺産分割協議ができるか?

遺産分割協議ができるか?

以上、遺言書がない場合に、相続手続はどうやるのかを見てきました。

重要なのは、遺産分割協議書に相続人全員の実印が必要であるということです。

つまり、遺産分割協議がまとまらないと、相続手続が滞ってしまいます。

対処法は、生前に遺言書を作っておくことです。

次のページで遺言書について見ていきましょう。

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  1. 法定相続人の順位と法定相続分
  2. 遺言がないときの相続手続の流れ
  3. 遺言書を作るべきケース
  4. 遺言書の作り方

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